Visual Tokyo2020 Badminton

初代王者へ
走り 飛べ

東京五輪BMX・フリースタイル

東京五輪で実施される33競技339種目のなかでも、ダイナミックさで一、二を争うのが新たに採用された自転車のBMXフリースタイル・パークだろう。ジャンプ台から飛び出したライダーが次々繰り出す宙返りや、自転車だけをくるくると回転させる離れ業に、観客たちは息つく暇もない。

若者受けするスポーツを積極的に取り入れた東京五輪の象徴ともいえるこの種目で、初代王者の期待がかかるのが中村輪夢。世界一といわれる高さ4メートル以上のジャンプをひっさげ「活躍していろんな人に知ってもらいたい」と意気込む19歳の若きエースが五輪に新風を巻き起こす。


Game

競技の特徴と勝敗の鍵

回ってるのは人?
それとも自転車?
ライダーが見せる
異次元の舞

制限時間は1分。
独創性も試される
空中技の数々

1970年代初め、モトクロスバイクのスターに憧れた米西海岸の若者たちが20インチの自転車を乗り回し始めたのが原点とされるBMX。フリースタイル・パークはその遊びのなかから、空中などでのトリック(技)を競い合う競技として生まれた。1分の制限時間で後方に宙返りする「バックフリップ」や、空中でハンドルから手を離す「ノーハンド」などを組み合わせた「コンボ」をいくつも繰り出し、その難易度や完成度で採点される。ほかのライダーとの違いを見せる独創性も重要な要素だ。五輪決勝は2回滑走し、最高点を採用して順位を決定。一つのミスが命取りになる一方で、一発逆転の可能性も秘めたルールとなっている。



どこを走り、
飛ぶかはライダー次第。
無限に広がる
滑走空間

公平を期すために五輪競技会場の細かなスペックは明らかになっていないが、「バンク」と呼ばれる斜面や「カーブ」と呼ばれる縁石、ほぼ垂直にせり出した「スピードウオール」などのセクションが設けられる。どこを走り、どんな技を見せるは自由自在。高いものでは2メートルにも及ぶ飛び出し口からさらに3メートル以上を飛び上がったライダーが見せるトリックはさながら鳥の舞のようだ。


奇想天外
トリックのカギは
自転車にあり

BMXパーク用の自転車と、街中で乗られる一般のものとの決定的な違いは、ハンドル部分が360度くるくると回転すること。ライダーはこの特性を生かし、ハンドルだけを回転させる「バースピン」、ハンドルより後部の車体のみを回す「テールウイップ」などを繰り出す。トップ選手になれば宙返りしながら車体も回す「フリップウイップ」、全体で横に2回転しながらハンドルだけさらに2回転する「720ダブルバースピン」といった奇想天外なトリックを持つ。





Player

注目の日本代表選手
中村輪夢・なかむら・りむ

中村輪夢 なかむら・りむ

2002年2月9日生まれ。京都府出身。BMXライダーでBMXショップを経営する父の影響で2~3歳でBMXを始め、17年に開催された第1回世界選手権で7位入賞。19年ワールドカップ(W杯)広島大会で日本選手過去最高の2位に入り、トッププロが集うXゲームでも準優勝した。同年11月、中国・成都でのW杯最終戦で初優勝し、種目別の年間王者に輝いた。

中村輪夢の
2つの強さ

  • 幼少から磨いたハイジャンプ
  • 先端テクノロジーで走りを改良

15歳で世界ランク
唯一無二4mジャンプ

17年に初開催された世界選手権で15歳ながら7位に入って以降、長足の進歩で世界のトップ級と肩を並べる存在になった中村。圧巻は4メートルにも達するジャンプの高さだ。「(初優勝した)W杯もエアの高さが評価されたと思う」と自負するその武器は「小さい頃からやってきて、その積み重ねだと思う」。19年11月のジャパンカップ(JC)で見せた、自分が横回転しながら車体だけも別に回転させ、さらにハンドルを1回転する「360トゥ・テール・トゥ・バースピン」や、今年5月のJCで披露した、2回転しながらハンドルから手を離す「720ノーハンド」は中村ならではの新技。長い滞空時間が高得点につながるのはもちろん、唯一無二の技を編み出す源泉にもなっている。


データ分析強み磨く

昨年1月にお披露目された、京都府宇治市に立つ中村専用の練習場はテクノロジーの粋を集めた世界初の夢のパークだ。企業向けデータ集計・分析などを手掛ける所属先企業のウイングアーク1st社が約4億円を投じて建設。場内に張り巡らされたカメラやセンサーを使い、自転車の加速度やジャンプの高さ、通過地点などのデータを細かく収集できる。同社の社員十数人が「Team RIM」として分析に当たり、これまで感覚的なものに頼らざるを得なかった中村の技の研さんを科学の力でサポートする。今年6月には、中村のリクエストに応え、新技習得のためセクションなどのアップグレードを実施。本番に向けてさらにスケールアップを図った。


中村選手
聞く

Q:新パークの効用について

A:ジャンプの高さを武器にしているけれど、一番ジャンプが高いときは何キロスピードが出ているかなどは今までわからなかった。データで出たらわかりやすく、もっともっと上を目指せる。(目指している)新技をするにはどういうラインで走ればいいかとか、斜めに入ったときはどうだったとか、それも測れるので。

Q:BMXの魅力を教えてください

A:迫力があってやっていても楽しいし、見ている人も楽しめる。BMXは2歳からやっているんで、もししてなかったら、というのは想像できないんですけど、BMXがあるから世界中に友達ができたとも思う。


Q:競技はもちろん、ファッションなども注目される存在。こだわりは。

A:はやりにはこだわらず、自分がいけてると思ったものを着たりはいたりします。音楽は(地元の)京都出身の「ANARCHY(アナーキー)」や「13ELL(ベル)」というラッパーが好きで。音楽がある方が調子よくて、練習中も、歯を磨いているときなども聴いているし、常に音楽を聴いている感じです。音楽のおかげで頑張れる、そんなパワーになっています。



2020年9月、左かかとを骨折して長期離脱を余儀なくされ、国際大会復帰戦となった6月初旬の世界選手権(フランス・モンペリエ)では7位にとどまった中村。「けがをしている間にみんなすごくうまくなっていた」と危機感も口にするが、自身も着々と新技を習得している最中だ。

20インチの自転車を相棒にする日本のエースは五輪を「まずは楽しみたい」とも。誰にも身近な自転車を使った遊びから生まれた「アーバンスポーツ」の魅力を伝える伝道師にもなりながら、初代王者を目指し、本番まで全力で駆け抜ける。

負けられない
闘いがはじまる

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取材・記事
西堀卓司
ディレクション
清水明
企画
森田優里
WEBデザイン
安田翔平
マークアップ
宮下啓之
映像、CG
伊藤岳
写真、動画
小幡真帆、柏原敬樹、浦田晃之介
イラスト
大島裕子

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