Visual Tokyo2020 Mens 100m

10秒に懸けた
熱き戦い

東京五輪陸上男子100m

人類最速の戦いといわれる陸上男子100m。その花形種目で日本人が世界の強豪に挑もうとしている。力強いスタート、中盤のスムーズな加速、スピードの維持。簡単にいえば「かけっこ」。だが単純ゆえに奥は深く、走りの細部にこだわる。

日本短距離陣をけん引するのが「10秒の壁」を破ったサニブラウン・ハキーム(フロリダ大)、桐生祥秀(日本生命)、小池祐貴(住友電工)だ。若きスプリンターたちの9秒台を懸けた走りを紐解くと――。


Player

注目の日本代表選手

9秒台が3人
世界に挑む
スプリンター

桐生が先陣を切り
群雄割拠の時代へ
9秒8台狙える実力

サニブラウン・アブデル・ハキーム 写真

サニブラウン・ハキーム

1999年3月6日、東京都出身。ガーナ人の父と日本人の母を持ち、東京・城西高時代の2015年世界ユース選手権で100、200mの2冠。17年世界選手権200mで大会史上最年少の決勝進出を果たした。同年秋にフロリダ大に進学。19年6月の全米大学選手権100mで9秒97の日本記録を樹立した。200mの自己ベストは20秒08。190センチ、83キロ。


桐生祥秀 写真

桐生祥秀きりゅう・よしひで

1995年12月15日、滋賀県出身。中学で陸上を始め、京都・洛南高3年時に10秒01をマーク。2017年9月の日本学生対校選手権で日本人初の9秒台となる9秒98をたたき出した。男子400mリレーでは16年リオデジャネイロ五輪で銀メダル、17年世界選手権で銅メダル獲得に貢献。日本生命所属。176センチ、70キロ。


小池祐貴 写真

小池祐貴こいけ・ゆうき

1995年5月13日、北海道出身。北海道・立命館慶祥高から慶大に進学し、2017年日本学生対校選手権男子200mで優勝。18年アジア大会で日本勢12年ぶりに金メダルに輝いた。本職は200mだが、19年7月のダイヤモンドリーグの100mで日本人3人目の9秒台となる9秒98をマーク。住友電工所属。173センチ、75キロ。


世界選手権
代表懸けた
日本一の争い

2019年6月28日
日本選手権
男子100m決勝

サニブラウン出遅れ
先行した桐生
勝負分けた中盤加速

緊張のスタート
静寂が集中力を高める

スタートは勝負を占うポイント。反応時間が0秒100未満でフライングになるが、選手はそのギリギリで飛び出すことを目指す。ただ、踏み出した直後の数歩で推進力を得なければ序盤で先行できない。スムーズに加速することも重要だ。


サニブラウン貫禄
向かい風で10秒02
桐生・小池に大差

自分の走りに集中
9秒台はかなわず
「何とも言えないタイム」

大きなストライドで踏み出すごとに加速していくサニブラウンの馬力のある走りが際立った。反応の遅れは想定内。「顔を上げたくらい」の50mで勝利を確信した。中盤からの加速はほぼ完璧。課題の前半とかみ合えば、さらなる記録も期待できただろう。

後半で粘って2位を死守した桐生は「力が足りなかった」。小池はスタートで「ちょっと浮いた」と語り、地面からの反発を受けて推進力につなげられなかったことを悔いた。


Game

競技の特徴と勝敗の鍵

陸上100m
注目したい3つの見方

  • 9秒台到達へ重要な「最高速度」
  • ストライド型かピッチ型か
  • 記録から見る世界と日本の差

9秒台を出すには
11.6m/秒が目安
出現区間もカギ

号砲から加速を続け
後半の減速抑えるか
風向きも記録に直結

日本陸連の科学委員会によると、最高速度と記録は相関関係にあり、9秒台の条件に秒速11.6mに到達することを目安に挙げる。

最高速度に達する地点も重要で、後半になればなるほど加速し続けていることを意味する。五輪や世界選手権の決勝では60m以降の選手が多い。誰もが終盤に減速するが、相手を抜き去って伸びているように見えるのは失速率が小さいため。背中に受ける追い風は失速を抑えてくれる要素になる。

一歩の幅
脚の回転か
特徴さまざま

サニブラウンは
ストライド型
桐生・小池ピッチ型

スピードを決める要素となるのが「歩幅」(ストライド)と「1秒あたりの脚の回転数」(ピッチ)だ。サニブラウンは一歩で稼ぐ距離を速さに結びつけるストライド型、桐生や小池は脚を素早く回すことでスピードを得るピッチ型に大別できる。日本選手権100m決勝ではサニブラウンが44.1歩で駆け抜けたのに対し、桐生が48.4歩、小池が50.9歩だった。

サニブラウンは2年前の日本選手権と比べてピッチ、ストライドともに向上。ストライドは5センチ伸びていた。米国でトレーニングを継続したことで、軸がぶれないフォームができてきたと考えられる。

進化する日本勢
世界との距離
縮めて五輪へ

過去140人以上が
9秒台突入。準決勝
で10秒の壁破れば
五輪決勝の可能性大

米国のジム・ハインズが人類初の9秒台(電動計時)となる9秒95を出したのは1968年。そこから日本人が初めて9秒台で走るまでに49年の歳月を要した。過去「10秒の壁」を破ったのは140人以上。日本人がそのうちの3人と考えれば世界の広さがわかる。

ただ、過去の五輪の準決勝で9秒台を出した選手が決勝に進めなかったことはない。日本人が東京五輪で決勝進出を狙うには9秒台が現実的な目標。ボルトの引退後の勢力図を見れば、9秒8台でメダルが見えてくる。

人類最速
海外勢による
至高の戦い

今年の日本選手権では短距離2冠に輝いたサニブラウンだが、「世界にはまだまだ化け物みたいな人が多い」と語る。日本勢に立ちはだかるつわものたちは東京五輪でもライバルになる。

  • 17年世界選手権銀メダリスト。規則違反にならなかったが、ドーピング問題が持ち上がった

  • 全米大学選手権ではサニブラウンらを抑えて優勝した新鋭。

  • 16年リオデジャネイロ五輪5位の実力者

  • アジア記録保持者。15、17年世界選手権で決勝進出

サニブラウンは「世界記録」を将来的な目標に掲げ、自らの可能性に向かってチャレンジを続ける。桐生や小池も世界と戦うことを念頭に海外レースを転戦。経験値は高まってきた。現在の日本短距離陣は間違いなく史上最強。2020年8月2日、午後9時50分、男子100m決勝。満員で埋まった新国立競技場のスタートラインに立つために、コンマ数秒を縮める鍛錬が続く。


負けられない
闘いがはじまる

Next Tokyo 2020

出典
陸上競技研究紀要
「2018年シーズンにおける男子100mのレース分析結果」
小林海、高橋恭平、山中亮、渡辺圭祐、大沼勇人、松林武生、広川龍太郎、松尾彰文
「世界トップスプリンターのストライド頻度とストライド長の変化」
松尾彰文、持田尚、法元康二、小山宏之、阿江通良
取材
渡辺岳史
ディレクション
清水明
企画
森田優里
WEBデザイン
安田翔平
マークアップ
宮下啓之
CG
伊藤岳
写真
柏原敬樹、山本博文
イラスト
大島裕子

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