Visual Tokyo2020 200m Breast stroke

体一つで
高みを目指し

東京五輪スポーツクライミング

ロッククライミングなどが源流となり、東京五輪の新競技となるスポーツクライミングは、「スピード」「ボルダリング」「リード」の3種目の「複合」形式で争われる。体一つで突起物(ホールド)をつかみ壁を登っていくのは共通だが、瞬発力、バランス感覚、持久力など求められる能力は様々だ。

日本から出場する男女4選手は全員が金メダル候補だ。2019年世界選手権を制した男子現王者の楢崎智亜の独創的な登り、繊細にして粘り強いクライミングが持ち味の女子の野口啓代ら、個性豊かなクライマーが初代王者を目指し、難関の壁に挑む。




Game

競技の特徴とライバルたち

頂点への
関門は3つ
試される総合力

3つの部門

  • ボルダリング
  • リード
  • スピード

険しい完登への道
パズルのごとき
難題を解け
ボルダリング



金メダルの行方を大きく左右しそうなのが、第2種目のボルダリングだ。高さ3~5メートルの壁に複数の課題(コース)が組まれ、少ないトライ数でいくつ課題を登れたかを競う。よじ登るフィジカルとともに鍵になるのが体勢の取り方や、ホールドのつかみ方といった繊細な動き。ゴールにたどり着く「完登」の成否は「核心」と呼ばれる最難関部分でのミリ単位で無駄のない動きが必要とされ、パズルにも例えられる頭脳戦でもある。



2020年2月8日
ボルダリングジャパンカップ


オブザベーション

ボルダリングとリードでは公平を期すために選手は裏手に隔離され、ほかの選手のトライを見ることができない。代わりに開始直前に「オブザベーション」と呼ばれる下見時間が与えられ、この間に手足の置き方、どのホールドを使うかといった手順を考え、頭にたたき込む。ただ、トライしてみて事前の想定と違うケースもあり、とっさに「プランB」に切り替える思考の柔軟性も欠かせない。



トライは1度きり
体力の限界に
挑む
リード



リードはロッククライミングにイメージが最も近い。高さ12メートル超の壁を6分以内に登った高さで競うが、4分間の制限時間で何度もトライ可能なボルダリングに対し、1度落下すればそこで終わりだ。選手は巧みに休憩しながら頂上を目指すが、次第に腕は張り、足の踏ん張りも利かなくなる。一発勝負の緊張感に包まれながら、体力の限界に挑む登りは、メダルの行方が決まる最終種目にふさわしいといえるだろう。


ゴール目指し一直線
猿のごとき
俊敏さを見よ
スピード



第1種目となるスピードは、どの大会でも統一配置のホールドを使い、高さ15メートルのゴールに到達する速さを競う。素早く体を引き上げる腕力や蹴り上げる脚力が必要な、瞬発系種目だ。最近は従来使われてきたホールドをつかまず、「ショートカット」して直線的に登る技術も次々編み出されている。男子の世界記録は5秒208で、3階建てのビルの高さに相当する壁を瞬く間に登り切る。



Player

注目の日本選手

各種目を
得意とする
日本選手

  • パワフルな野中生萌の
    「スピード
  • 楢崎智亜の独創的な
    「ボルダリング
  • 繊細にして大胆。野口啓代の
    「リード

楢崎智亜の
独創的な
ボルダリング


楢崎智亜選手

楢崎智亜 ならさき・ともあ

1996年6月22日生まれ。栃木県出身。十代後半から頭角を現し、2016年ボルダリング世界選手権で日本男子初優勝を飾る。17年のワールドカップ(W杯)では3種目の「複合」で初の総合優勝を達成。東京で開催された19年世界選手権でも複合王者に輝いた。スピードでも21年ジャパンカップで出した5秒72の日本記録を保持する。TEAM au所属。


独創性あふれる登り
「ニンジャ」の異名持つ
万能クライマー


ボルダリングでは誰も思いつかない独特のルートで進むことも多く、幼いころ体操で培ったしなやかな体を使った登りは海外で「ニンジャ」の異名を持つ。ルートを定めると時間をかけず登っていくけれん味のなさも特徴だ。経験が浅く苦手だったスピードも「トモアスキップ」で呼ばれるショートカット技を編み出すなど成長著しい。世界記録に0秒5ほどに迫り、隙のない万能クライマーに成長した25歳は、金メダル最右翼といっていいだろう。



繊細にして大胆。
野口啓代の
リード


野口啓代選手

野口啓代 のぐち・あきよ

1989年5月30日生まれ。茨城県出身。2008年ボルダリングW杯で日本女子初優勝を飾り、09~15年に総合優勝を4度獲得した。五輪で採用される複合でも18年アジア大会金メダル、19年世界選手権銀メダル。10年以上にわたり世界のトップクライマーの一人として君臨する。TEAM au所属。


最初で最後の
五輪に懸ける
第一人者の花道は


今大会を最後に引退を明言。2016年に五輪採用が決まる前から日本、そして世界のスポーツクライミング界をけん引してきた野口にとって、東京五輪は最初にして最後の大舞台となる。十代の活躍が珍しくない世界で32歳と大ベテランの域に達してもその実力は健在だ。持ち前のバランス感覚で緻密に課題を攻略するボルダリングはもちろん、最終種目のリードでの集大成の登りを一瞬たりとも見逃さず目に焼き付けたい。



パワフルな
野中生萌の
スピード


野中生萌選手

野中生萌 のなか・みほう

1997年5月27日生まれ。東京都出身。2016年ボルダリング杯・ムンバイ大会で初優勝し、同年の世界選手権でも銀メダルを獲得。18年W杯で初のボルダリング種目年間総合優勝を果たした。19年はボルダリング、スピード、複合のジャパンカップ3大会を制覇。XFLAG所属。


日本初のW杯表彰台
日進月歩で
世界を追う


もともとはボルダリングやリードが専門の野中だが、「下半身の出力が高い」と自負するパワフルな登りは、瞬発力を要するこのスピードにも適応。5月のW杯では日本新記録を出すなどしてこの種目では日本選手初となる表彰台に立った。五輪開幕を1カ月後に控えた6月のジャパンオープン盛岡大会では7秒88と記録をさらに更新。世界のスペシャリストと肩を並べるまでに成長したスピードは、五輪制覇に向けてのアドバンテージになる。



実績は折り紙つき
男女とも
金メダル視野に

カギ握るスピード
スタートダッシュで
流れつかめ


男女制覇も狙える日本の布陣で、ライバルとなるのが、男子では19年リード世界選手権覇者のアダム・オンドラ(チェコ)や複合世界女王のヤンヤ・ガルンブレト(スロベニア)。いずれもボルダリングやリードは手ごわいだけに、日本勢にとってはスピードの成否がカギになる。過去の複合大会でもスピードで流れをつかんだ選手が優位に立つケースは多く、第一種目でスタートダッシュを決め、そのまま初代王者への道を突っ走りたい。


かけ算で
順位を決定
わずかな差が
決定打にも


スポーツクライミングで採用された異例の方式が、3種目の順位をかけ算し、算出した値が小さいほど上位となる順位決め。例えばすべて2位だった場合は「2×2×2」で総合8ポイント。2種目で4位、1種目が1位だった場合は「4×4×1」で総合16ポイントとなる。特に上位選手の実力が拮抗し、選手によって課題との相性もあるボルダリングは波乱の要素をはらむ。「はまって」1位を奪えるか、下位に沈むかが優勝の行方も左右することになりそうだ。



スポーツクライミングは2024年パリ五輪では「スピード」種目と「ボルダリング」「リード」が分かれて実施されることが決まった。「3種目複合」スタイルでの最初で最後となる五輪で、個性豊かな日本4選手が頂点に立つチャンスも十分。「キング・オブ・クライマー」として語り継がれる存在になるために。勝負の日がすぐそこに来ている。


負けられない
闘いがはじまる

Next Tokyo 2020

取材・記事
西堀卓司
ディレクション
清水明
企画
森田優里
WEBデザイン
安田翔平
マークアップ
東條晃博
映像、CG
伊藤岳
写真
山本博文、柏原敬樹
イラスト
大島裕子

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