Visual Tokyo2020 Tabletennis

超絶技巧から
目を離すな

東京五輪卓球

元世界王者で国際卓球連盟会長も務めた故荻村伊智朗氏が「100mを走りながら、ブリッジをするようなもの」と例えた卓球。長さ2.74m、幅1.525mの台上でトップ選手が繰り広げる、技術と戦術のせめぎ合いは見る者をくぎ付けにする。

その醍醐味は直径40㎜のボールにほどこされる回転だ。上下に、左右に。正確なラケットコントロールで相手コートへと硬軟自在に打ち返す。相手は次にどんな手を打ってくるのか。ラケットを振りながら頭は常に先を読み続ける。

躍進著しい、卓球ニッポンを牽引する個性豊かな選手たち。地元の大舞台で目指すのは「卓球王国」中国を破っての初の金メダルだ。


Game

競技の特徴と勝敗の鍵

これが卓球
全力の一本
狙い撃て

卓球競技が五輪で
注目の3つの訳

  • 返球の大半はドライブ、速さとコースのギリギリを狙う
  • 戦型、ラバー、立ち位置… 個性豊かなスタイルも魅力
  • 世界最強の中国、パワーと技術で圧倒する相手に勝機は

猛烈な回転を見極めて返球。
一瞬の技術を見逃すな

ラリーの基本はドライブだ。コートを仕切る高さ15.25cmのネットを確実に越えつつ、スピードボールを相手のコートにバウンドさせる。一見矛盾するその両立には、ネットを越えたら急激に落下する上回転が必要になる。守備型のカットマンが多用するのは下回転(バックスピン)。どちらも体の真横でラケットを振り抜きながら、すぐに相手の返球を読んで足を動かす。一瞬の判断ミスも許されないボールの応酬は、時に大きな感動を呼ぶ。

ラバーで変わる戦い方。
トップの多くが裏裏」

スタイルに合わせて
ラケットをカスタマイズ

ラケットのフォア面とバック面。どちらに、どんなラバーを貼るかは選手の自由だ。主流は接触面が大きくて強い回転を出せ、ボールのコントロールもしやすい「裏ソフト」。張本智和のプレースタイルは「右S裏裏ドライブ」と紹介されるが、これは「右利き、シェークハンド(S)、ラバーのフォア面とバック面がともに裏ソフト、ドライブ型」という意味だ。多くのトップ選手が「裏裏」のスタイル。伊藤美誠はバック面に表ソフトを貼り、球質の変化で勝負する。

攻めるか、守るか。
立ち位置の違いは
戦い方の違い

高速でボールをやりとりする卓球では、自陣に来たボールの返球が早いほど有利になる。それを突き詰めるのが前陣型。バウンドしたボールが最高地点に達する前にたたく、スピード勝負の戦い方だ。相手のボールの球速も衰えてはいないから、当然リスクはある。読みと反応、繊細なラケットコントロールが欠かせない。

ある程度ボールを見極められる中陣。その分、強打で返さなければ相手の逆襲が待っている。両者が全力で腕を振ってスピードボールを打ち合うラリーは壮観だ。後陣はカットマンたちが踊るように動き回る指定席。時には高さ76cmの卓球台から姿が消えるほどしゃがみこみ、フロアすれすれでどんなボールも拾ってみせる。


Player

注目の日本代表選手

注目選手を
通してみる
日本の強み
スタイル

天才少年は早くも
日本のエースに
躍進の女子を
引っ張る大黒柱

張本 智和選手

張本智和 はりもと・ともかず

中国出身の両親のもと宮城県で生まれ育った。幼い頃から「100年に1人の逸材」と呼ばれ、国内外で数々の最年少記録を更新。全日本選手権を制した2018年には国際大会でロンドン、リオデジャネイロの両五輪で金メダルを獲得した2人の中国選手を破った。世界ランキングは最高3位。東京五輪ではシングルスはもちろん、団体戦でもエースとしての活躍が期待されている。

(注)成績、ランキングはすべて2021年6月時点

Tリーグで見る、緻密なラリー 張本智和vs森薗政崇

テレビ東京の試合映像とデータスタジアム提供のトラッキングデータをもとに日経が作成

張本の技術が光るシーンだ。対戦相手の森薗は、バックハンドで強烈な回転をかける「チキータ」に絶対的な自信を持つ。張本はまず短く低いサーブを出してチキータを許さず、次の場面でも台の中で短くボールを返球。森薗が思いきって打ってきた強いドライブも台から下がることなくブロックした。絶妙なラケットコントロールで、最後は森薗のミスを誘った。

石川 佳純選手

伊藤美誠 いとう・みま

現行制度では男女を通じて日本勢最高の世界ランキング2位につける女子のエース。サーブとレシーブで先手を取り、ラリー中に意表を突く回転も織り交ぜるなど唯一無二のプレースタイルを持つ。東京五輪では日本チームで唯一、シングルス、団体戦、水谷隼との混合ダブルスの全3種目に挑む。15歳で初出場した16年リオデジャネイロ五輪では福原愛、石川佳純との団体戦で銅メダルを獲得している。

頂点を狙う日本代表
精鋭のスタイルは多様
盤石の中国に挑む


世界ランキングは2019年11月現在

  • 前陣から繰り出す打球点の早いバックハンドが武器で、中でも強烈な回転をかける「チキータ」は世界屈指。肉体の成長と共にフォアハンドの威力も強化しており、隙のない選手に成長している

  • 相手の強打を利用した超高速カウンターが武器。バック面を使ったブロックなど意外性あふれるプレーを随所に繰り出す。唯一無二のプレースタイルにはファンが多い

  • 多彩なサーブからの攻撃、台から下がってのラリーなど高い技術を持つオールラウンダー。全日本選手権を史上最多の10度制するなど男子卓球界を長年引っ張り、東京五輪を日本代表の最終戦と位置付ける

  • バック面の表ソフトラバーを駆使し、相手の回転を利用したドライブや緩い返球などを自在に操る。チャンスでは迷わずスマッシュを放ち、バックスイングがほとんどない「みまパンチ」も武器。サーブの種類は数知れず、ダブルスもめっぽう強い

  • フォアとバックの両ハンドからの正確なドライブが武器の正統派スタイル。抜群の安定感があり、五輪団体戦では2大会連続でメダルを獲得。世界選手権の混合ダブルスでの優勝経験もある

  • 両ハンドドライブを相手コートの隅に高速で打ち抜く、超攻撃的なスタイルが武器。2017年世界選手権では女子シングルスで48年ぶりの銅メダルを獲得し、「ハリケーン」と呼ばれた

世界最強の中国、男女とも死角なし

卓球が五輪で採用された1988年ソウル五輪以降、金メダルをほぼ独占する中国。2019年世界選手権でも全5種目を完全制覇し、他国・地域の追随を許さない。男子でリオ五輪2冠の馬竜は全てのプレーが高次元で、若手代表格の樊振東はチキータが脅威。左利きの許昕はトップ選手には珍しいペンホルダーで、粘りのラリーから驚くような回転をかけてくる。

女子も難敵がそろう。19年世界選手権シングルスを制したベテラン劉詩雯は許昕との混合ダブルスにも出場。金メダルを目指す日本ペアにとって最大の壁だ。世界ランキング1位の陳夢は隙のないプレーでこれまで伊藤に負けなし。伊藤や平野と同じ2000年生まれの孫穎莎は強力な両ハンドドライブを得意とする。中国のトップ選手は新型コロナウイルスの感染対策を理由に今年の国際大会に出場していないが、平野は「長く試合をしていないので逆に自分が成長していればチャンス。ポジティブに受け止めたい」と話している。


日本卓球界の
今を作った
福原 愛の貢献

皆が憧れた愛ちゃん
卓球人気を牽引
競技人口は急増
低迷期脱した日本

日本代表選手の活躍にTリーグの誕生、次々登場する「スーパー小学生」。強化・人気の両面でかつてない注目を集める今の卓球界は、2018年10月に現役引退を表明した福原愛の存在なくして語れない。3歳9ヵ月で卓球を始め、泣きながらボールを追う「泣き虫愛ちゃん」は国民的な人気者に。五輪には4大会連続で出場し、ロンドンとリオでメダルを獲得するなど名実ともに日本の「顔」だった。多くの子供が福原に憧れてラケットを握り、競技人口は年々増加。分厚い選手層から多くのトップ選手が生まれている。いち早くプロとして活動した福原の影響もあり、卓球選手の地位は大きく向上している。

東京五輪の卓球会場は長く全日本選手権が開かれてきた東京体育館(東京・新宿)。日本勢にとっては「聖地」と呼べる舞台で世界の強豪を迎え撃つ。ライジングスターが躍進するのか、競技生活の集大成と位置付ける第一人者が意地を見せるのか。それぞれの思いをラケットに託し、限界を超えるプレーを見せられるか。(敬称略)

負けられない
闘いがはじまる

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取材・記事
鱸正人
ディレクション
清水明
企画
森田優里
WEBデザイン
安田翔平
マークアップ
東條晃博
映像、CG
伊藤岳、斎藤健二
写真
柏原敬樹、山本博文、小幡真帆
イラスト
大島裕子
取材協力
テレビ東京

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