外国人依存度 データの現場①

9年で3.4倍 北海道、製造・宿泊業で伸び

2019年4月から、日本で働く外国人の受け入れ枠が広がる。日本で働く外国人はどの都道府県でどんな仕事を担っているのか。データをもとに人手不足に悩むニッポン列島の現場を追う。初回は9年で外国人労働者の割合が約3倍になった北海道。

北海道の外国人依存度伸び率

国勢調査と労働力調査などから、外国人労働者の割合「外国人依存度」を調べた。北海道は道内で働く人のうち外国人労働者の割合が09年は「425人1人」だったが、18年には「125人に1人」に高まった。製造業や宿泊業で外国人を採用する企業が目立つ。

外国人依存度の全国平均は「46人に1人」。1位は「18人に1人」の東京で、2位に愛知、3位は群馬と大都市や工場立地県の依存度が高い。

農業が主力の北海道は約263万5千人の労働者のうち外国人は2万1026人(18年)。都道府県別でみた依存度自体は38位と低いが、依存度の伸びが目立つ。北海道の伸び率3.4倍は全国平均の2.4倍を上回り、沖縄(4.2倍)や福岡(3.7倍)、鹿児島(3.7倍)に次ぐ。訪日客の増加などにより、地域の経済が好転したことが背景にあるようだ。

寮は個室、光熱費は会社持ち

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アイビック食品ではベトナムからの実習生がだしを梱包するラインで働く(札幌市東区)

業種別の依存度が最も高かったのは「54人に1人」の製造業だ。

まず、札幌駅から車で15分ほどの食品製造工場を訪ねた。アイビック食品(札幌市)ではベトナム人の技能実習生3人が働く。だしやたれを詰めるラインで空ビンを並べたり、段ボール箱にレシピを入れたりする作業を日本人パートと一緒にこなしていた。

賃金は月15万円程度でベトナムの5~7倍の水準だ。ロンさん(21)は「日本人の働き方を勉強して、ベトナムに帰っても日系企業で働きたい」とたどたどしいながらもしっかりした日本語で語った。一緒に働くビンさん(24)とロン(25)さんも同じように日系企業で働きたいと口にした。

実習期間の3年で日本語を身につけ、帰国後は賃金水準の高い日系企業で働くという成功モデルがあるようだ。3人はハノイ近郊の出身。外国人労働者の受け入れで先行する韓国ではなく、日本行きを希望する友人が多いという。

工場での作業後に本社工場に併設する寮を見せてくれた。部屋は個室で、ベッドと机があるシンプルな作りだ。暖房費を含めた光熱費は会社持ちで、寮費は月1万5千円。牧野克彦副社長は「お金をかけて、日本人が住みたくなるような部屋にした。日本人社員も住んでいる」と胸を張る。

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共同生活のルールは日本語とベトナム語で書かれている(札幌市東区のアイビック食品)

求人広告を出しても応募が全くないほどの人手不足で、アイビック食品は17年12月に外国人採用を始めた。アイビックにとって外国人社員を受け入れるのは初めてで、牧野副社長がベトナムで採用面接を行った。実習生の実家にも行き、工場や製品、寮の写真などを見せて説明したという。牧野副社長は「外国人を安価な労働力としてしかみていない企業や実習生の失踪の話を聞くが、生半可な気持ちではやっていない」と断言する。

あっという間にSNSを通じて労働条件や生活環境が伝わる時代。地方企業は賃金水準の高い大都市の企業と人材獲得競争をしている。福利厚生をはじめ、受け入れに知恵を絞らないと、外国人から選ばれなくなるという危機感がある。

北海道の業種別外国人依存度ランキング

順位業種2015年総数上位3カ国
1 製造 1/54 3767 中国: 2776人,ベトナム: 524人,フィリピン: 137人
2 鉱業、採石業、砂利採取 1/58 36 ベトナム: 31人,中国: 5人
3 農業、林業 1/71 1963 中国: 1074人,ベトナム: 437人,フィリピン: 291人
4 教育、学習支援 1/95 1104 アメリカ: 327人,中国: 129人,韓国・朝鮮: 119人
5 宿泊、飲食サービス 1/111 1310 中国: 423人,韓国・朝鮮: 403人,フィリピン: 108人

日本語検定合格で時給アップ

次に訪れたのは、訪日客で沸くホテル。ホテル業を兼業するガソリンスタンド経営の中和石油グループ(札幌市)は、ベトナムや中国から清掃を担当する技能実習生22人を受け入れている。ベトナム人のリさん(19)は午前中にホテルでベッドメイキングを済ませると、午後はビルの清掃をこなす。技能実習担当の菅田浩志氏は「道内ではニセコなどリゾートホテルとの人材争奪が起きており、札幌市内のホテル清掃は実習生なしでは回らない」と話す。

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技能実習生としてベッドメイキングを行うベトナム人のリさん(札幌市中央区)

宿泊・飲食サービス業の依存度は「111人に1人」とまだ低い。北海道ではホテルの開業計画が相次いでいるため、今後は外国人依存度が急激に高まりそうだ。

中和石油は実習生向けに日本語教室を開いている。文法ばかりでは飽きてしまうので、日本のヒット曲を教える。リさんは「『さよなら大好きな人』が好きです」と言って、ワンフレーズ歌ってくれた。日本語検定試験に合格すると、時給が30円上がることが学習意欲を高めている。

会社側には長期間働いてもらうために日本語能力を高めて欲しいとの思惑がある。4月施行の改正出入国管理法で、ビルクリーニングは「特定技能1号」の対象業種となった。技能実習なら在留期間は3年だが、特定技能1号に移れば最長5年の就労が可能になる。

介護の「金の卵」

最後に訪ねたのは、人手不足が深刻なのに外国人依存度が低い介護だ。介護を含む医療・福祉の依存度は「901人に1人」に過ぎない。

「金の卵」が東川町にある旭川福祉専門学校にいた。介護福祉科で学ぶ64人のうち、10人は留学生だ。

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介護実習するベトナム人のヒロさん(左)とインドネシア人のランガさん(北海道東川町の旭川福祉専門学校)

介護実習の授業をのぞくと、ベトナム人男性のヒロさん(24)とインドネシア人男性のランガさん(33)がペアになって手を温める部分浴の実習をしていた。ベトナム人女性のマイさん(21)は日本人学生とペアを組んでいた。授業では日本の歳時記や季節の料理も教えるという。3人は3月に卒業予定で、3人とも日本での就職を希望している。

校内の掲示板は介護施設の求人票で埋め尽くされていた。日本人も含め、卒業予定の学生は32人しかいないのに、求人を全部足せば数百人規模になり、深刻な人手不足がうかがえる。

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介護実習に取り組むベトナム人のマイさん(中央)=北海道東川町の旭川福祉専門学校

介護も改正入管法で、外国人に門戸が開かれる業種の1つ。依存度は高まるのは確実だ。課題は介護の技術や知識をどう教えていくか。

介護では技能実習や経済連携協定(EPA)に基づく介護職の受け入れなどで人手不足を何とか補おうとしてきた。ただ、技術や知識は働きながら覚えるため、即戦力とはなりにくい。介護技術や知識を身につけた「金の卵」たちは道内だけでなく、全国からの求人があるという。黒田英敏副校長は「教育内容は日本人と同じで、介護施設からは重宝がられている。卒業生が技能実習生やEPAで受け入れた介護職の先生役になっているケースもある」と話す。

松岡市郎・東川町長に聞く

留学生を積極的に受け入れ 地元住民と共生

東川町は人口減対策として外国人を呼び込んでいる。人口約8300人のうち、外国人は380人。5年前の51人から大きく増えた。町独自の奨学金制度を作り、留学生を積極的に受け入れている。外国人との共生策を松岡市郎町長に聞いた。

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なぜ、外国住民を増やすのですか。

「町内の専門学校は日本人を集める努力をしても定員が埋まらない。このままではまずいと危機感を持った。町の活性化には日本人か外国人かは関係ない」

住民の反発は。

「顔や背格好が似ているアジア系が多いので溶け込んでいる。トラブルはほとんどない。住民がひとり増えれば、20万円の地方交付税が入る。歳入が3000万円増えたので、住宅のバリアフリー対応に50万円を補助する制度を作った。住民は外国人がいる利点を理解し、享受している」

共生のコツは何でしょうか。

「中国、タイ、ベトナムなど海外に町の情報発信拠点を設け、来る人を事前に面接している。行政の関与で学校や企業は安心する。お互いの文化を紹介する交流会を作り、住民との接点を増やすことも重要だ」

取材・制作
藤川衛、矢後衛、久能弘嗣、大槻亨、山中博文、鷹巣有希

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