外国人依存度 データの現場②
長野の農林業に外国人2000人超 キノコ生産支える
ガシャ、ガシャ、ガシャ。ひんやりした空気の中、機械の音が響く。ローラーコンベヤーで運ばれるのは、隣の培養室で育った真っ白なエノキタケだ。手作業で一つひとつ成長を確かめて、機械で梱包。出荷用の段ボールが次々に積み上がっていく。
長野県の外国人依存度伸び率
中国人実習生60人が働く
ここは、1日8万2000袋のエノキタケを生産するケーアイ・オギワラ(長野県中野市)の施設。白い作業着に身を包み、日本人従業員とともに働くのが8人の外国人技能実習生だ。長野県のきのこ生産量は全国1位(2017年)。エリンギやブナシメジも生産する同社では、約60人の中国人実習生が働く。
「求人を出しても(日本人からの応募は)非常に少ない」。同社の荻原大輔常務はあきらめ顔で話す。外国人を雇い始めたのは10数年前から。あわせて作業の機械化、省力化も進めるが、手作業が必要となる工程もある。実習生は「仕事もできるし、毎日働き、勤務態度もとても良い」と話す。
3月には、実習生向けの個室寮(50室)が完成する。さらに、既存の寮も相部屋から個室で使えるように改修する予定だ。
個室寮の建築費用と改修費用はあわせて1億8千万円ほど。それでも踏み切ったのは「実習生も相部屋ではストレスがたまる」との配慮からだ。「意欲的に働いてもらうには、貴重な人材として待遇を改善していくことが必要」と指摘する。
外国人依存度が高いのは製造業
全国的な傾向と同様に、長野県内でも働く外国人が増え続けている。18年の労働力調査などの政府統計によると、外国人労働者の割合を示す外国人依存度は「63人に1人」。リーマン・ショック後の09年と比べると1.7倍に増えた。この伸び率は全国の都道府県ランキングでみると42位だが、外国人割合でみれば21位となる。
業種と都道府県別に外国人の割合がわかる国勢調査(15年)によると、県内で最も外国人依存度が高いのは製造業だ。「31人に1人」の割合で、宿泊・飲食サービス「41人に1人」、農業・林業「47人に1人」が続く。
長野県の業種別外国人依存度ランキング
順位 | 業種 | 2015年 | 総数 | 上位3カ国 |
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1 | 製造 | 1/31人 | 7236人 | 中国: 2294人,ブラジル: 1776人,フィリピン: 1309人 |
2 | 宿泊、飲食サービス | 1/41人 | 1667人 | 韓国・朝鮮: 453人,中国: 403人,フィリピン: 313人 |
3 | 農業、林業 | 1/47人 | 2041人 | 中国: 838人,フィリピン: 534人,ベトナム: 318人 |
4 | 教育、学習支援 | 1/72人 | 588人 | アメリカ: 210人,イギリス: 61人,韓国・朝鮮: 57人 |
5 | サービス | 1/99人 | 514人 | 韓国・朝鮮: 141人,中国: 112人,ブラジル: 84人 |
温泉街で外国人観光客に対応
「長年、深刻な人手不足に悩んでいた。わらにもすがる思いだった」。石畳が続く温泉街を歩く外国人観光客の姿がおなじみとなった渋温泉(長野県山ノ内町)。渋ホテルの館主、山田和由さんは3~4年前に初めて外国人を雇った時の心境をこう振り返る。
現在、インターンシップやワーキングホリデーの外国人学生のほか、フィリピン人とネパール人がそれぞれ正社員として働く。2月から台湾人、4月からはさらにネパール人1人が正社員として入社する予定だ。
渋ホテルでは宿泊者の2割が外国人。外国人従業員は通訳といった外国人客の対応のほか、日本人客の接客も担当する。山田さんは「もともと日本文化が好きな外国人従業員は仕事にやる気もある。温泉街に活気が出てきた」と語る。
「日本語交流員」が外国人に寄り添う
もっとも、長野県内を見渡すと外国人材の受け入れでは課題もある。上田市の事業所で18年10月、無資格の実習生にフォークリフトを運転させていた法令違反の事例が発覚。実習生の失踪もある。「SNSで情報を集めて、より賃金の高い名古屋などの企業に行ってしまうようだ」。実習生を受け入れる管理団体の担当者はため息をつく。
増える外国人労働者と共生するカギの一つが日本語教育だ。県は「対応は待ったなし」(阿部守一知事)との認識から、1月から「日本語交流員」の育成に乗り出した。外国人に寄り添い、会話相手になったり、地域住民との連携役になったりする。日常生活に必要な日本語を学べる「新しい学びの場」(仮称)も松本市と上田市に設ける予定だ。
- 取材・制作
- 山内菜穂子、矢後衛、久能弘嗣