投票を分析
賛成か反対か対立するイメージ 賛成か反対か対立するイメージ

政令市
残す? なくす?
よくわかる
大阪都構想
OSAKA-METROPOLIS-PLAN

政令市
残す? なくす?
よくわかる
大阪都構想
OSAKA-METROPOLIS-PLAN

「大阪都構想」の是非を問う住民投票の投開票が11月1日に行われ、反対多数で否決されました。大阪市は政令指定都市(政令市)として存続が決まりました。10年に渡って大阪世論を二分してきた大阪都構想は、何が焦点だったのでしょうか。

大阪都構想とは

1010年11月1日住民投票で可決されると4つの特別区に、否決されると大阪市が残る 1010年11月1日住民投票で可決されると4つの特別区に、否決されると大阪市が残る

大阪都構想は大阪市を廃止し、4つの特別区を作る構想でした。特別区は選挙で決めた区長と区議会を持ち、他の市町村と同じく税の徴収や条例の制定ができます。現在の24区は行政区で、行政事務の円滑な処理が目的です。

大阪都構想
賛成!反対!のワケ

大阪都構想を巡っては賛成派と反対派が鋭く対立しています。2015年の住民投票を挟んだ10年間の議論で、都構想の具体案は少しずつ修正が加えられてきましたが、賛成・反対を主張する両者の隔たりは埋まっていません。都構想が大阪を二分してきたワケを4つのポイントで解説します。

無駄がなくなる?

賛成

大阪府と特別区で
役割を明確にすれば、
意思決定が速くなる。
二重行政の解消 二重行政の解消

反対

二重行政の解消は
大阪市のままでできる。
特別区は不要。大阪府、特別区、一部事務組合の三重行政になる。 特別区は不要。大阪府、特別区、一部事務組合の三重行政になる。

賛成派は大阪府と大阪市による二重行政の解消を目指しています。府と市の足並みがそろわず、高速道路の整備や都市開発、観光振興をそれぞれが進める無駄が生まれていたと主張します。都構想では大阪府と特別区の役割を明確に分け、特別区は保育支援やごみ収集など地域に身近な業務に集中します。

反対派は大阪市のままでも二重行政は解消できると主張します。また、賛成派が二重行政と説明する事例には、府と市で機能が違っていて、二重行政には当たらないものがあるとも言います。介護保険やスポーツ施設の管理などの業務は「一部事務組合」という組織に移管するため、「大阪府」「特別区」「一部事務組合」の三重行政になるとも批判します。

全国にある二重行政
横浜、神戸は「独立」模索

道府県と政令市の二重行政は、大阪だけの問題ではありません。政令市は人口50万人以上が条件で、全国に20市あります。大都市ゆえに出費がかさむ一方で財政基盤は弱く、道府県と権限委譲や税収配分を巡る論争が続いています。

横浜市や川崎市、神戸市は、警察権限などを移管して県から独立する「特別自治市」を掲げます。愛知県と名古屋市の「中京都構想」、新潟県と新潟市の「新潟州構想」、静岡県知事が唱える「静岡型県都構想」も話題になりました。ただ、道府県と政令市の利害調整は難航しがち。大阪都構想の可否は、こうした議論に一石を投じるかもしれません。

行政サービスが
良くなる?

賛成

住民に身近な特別区が
地域の実情にあった
サービスを期待できる。
サービスをきめ細かく サービスをきめ細かく

反対

特別区は自主財源が乏しく、
サービスを維持できない
恐れがある。
財政次第で劣化する 財政次第で劣化する

賛成派は特別区にそれぞれの区長と区議が生まれることで、地域住民の声が今までよりも届きやすくなると主張します。特別区の設置時点で住民サービスが低下したり、公共料金が高くなったりすることはないと言います。設置後については、「内容や水準を維持するよう努める」としています。

反対派は設置後のサービス維持は義務ではなく、努力目標でしかないと指摘します。特別区が財源不足に陥り、70歳以上を対象に公共交通機関の乗車料が安くなる「敬老パス」や小中学校の給食費無料など、大阪市民からの人気の高いサービスも削減対象になりかねないと主張します。

「都」と「府」の
違いは?
明治政府は重要拠点に府を置いた 明治政府は重要拠点に府を置いた

今回の住民投票で都構想が可決されても、大阪府がただちに「大阪都」となるわけではありません。大都市地域特別設置法では、特別区がある道府県を原則として「都とみなす」としていますが、名称変更の決まりはないからです。名称変更には別途、国会での法整備が必要です。

なぜ「都」と「府」があるのでしょうか。明治政府は当初、外国に開いた港など10カ所の重要地を「府」としました。まもなく江戸府が改称した東京府、大阪府、京都府の3カ所を残し、廃藩置県に臨みました。戦時下の1943年、国家による管理強化を目的に東京府と現在の23区に相当する東京市が合併。これが東京都の始まりです。

都構想は
お金がかかる?

賛成

財政シミュレーションで
特別区は2039年まで
黒字の見通しだ。
特別区は黒字 特別区は黒字

反対

シミュレーションには
コロナ禍の影響が
算入されていない。
コロナも考慮を コロナも考慮を

都構想には、システム改修や庁舎整備で241億円の初期投資がかかります。また、運営費には大阪府と特別区の合計で年30億円が必要です。住民サービスを安定提供するため、大阪府は2025年から10年間、年20億円の財源を特別区に追加配分します。

賛成派は2039年度までの財政シミュレーションで4つの特別区すべてで黒字を確保でき、収支不足は起こらないと主張します。

反対派はコロナ禍の影響を考慮すれば、特別区は赤字だと反発します。特別区は地下鉄からの配当収入を当て込みますが、2020年4~6月期は外出自粛などで旅客収入が落ち込みました。

ただ、旅客収入減がいつまで続くかは見通しが難しく、賛成派は「コロナの影響は一時的だ」と反論します。

特別区で住所は
どう変わる?
新住所のルールは、特別区+現在24区+町名となる 新住所のルールは、特別区+現在24区+町名となる

特別区になれば、住所も変わります。特別区の直後に、現在の24区名を追加する形式が原則です。例えば、「大阪府大阪市浪速区日本橋」なら「大阪府中央区浪速日本橋」となります。ただ、北区や天王寺区のように特別区と現在の区名が同じ場合など、いくつかの例外もあります。

大阪市は2021年春にも新住所の素案を公表します。住民からの反対があれば、反映する可能性があります。正式決定は2022年春の見通しです。

景気はどうなる?

賛成

委託調査では10年間で
最大1兆円を超える
経済効果。
経済効果は1兆円超 経済効果は1兆円超

反対

調査は信頼できず、
歳出削減や経済効果は
乏しい。
調査の信憑性が薄い 調査の信憑性が薄い

賛成派は特別区を設置すれば、10年間で最大1兆1409億円の歳出を削減でき、そのうちの5000億円をインフラ整備などの投資に振り向ければ10年間で1兆円を超える経済効果も生み出せると主張します。根拠は大阪府・市からの委託で学校法人嘉悦学園がまとめた報告書です。

反対派は嘉悦学園の調査は信憑性が薄いと主張します。報告書が都市の人口規模と歳出増減の捉え方を誤っていると指摘。特別区の設置に調査通りの歳出削減効果はなく、5000億円の投資余力も生まれないと見ています。

コロナ禍の住民投票
感染対策は?
大阪府の新規感染者数のチャート 大阪府の新規感染者数のチャート

一時よりも感染者が減少しているとはいえ、選挙管理委員会は投票所での新型コロナウイルスの感染に神経をとがらせます。投票所に消毒液を設置したり、換気したりして感染対策をはかる方針です。期日前投票では投票時間の延長で、投票者の集中を避けています。

都構想の反対派からは「住民説明会が十分に開けていない」「住民投票よりもコロナ対策を優先するべきだ」との批判も出ています。

何が違う?
4つの特別区を知る

大阪都構想は現在の大阪市を4つの特別区に分割します。新たな特別区の法的な位置付けは東京23区と同じですが、区ごとの人口規模や面積にバラツキがある東京都に比べ、大阪都構想では4区間のバランス維持に苦慮しました。

大阪市から特別区へ
130年ぶりの大変革

現在の24区体制の地図 4区へ分割した場合の地図 淀川区の位置 北区の位置 中央区の位置 天王寺区の位置

誕生は1889年

1889年に誕生した大阪市。少しずつ市域を広げ、1989年に現在の24区体制へ移行しました。

24区から4区へ

大阪都構想は大阪市を4つの特別区に分割します。大阪市は区割りについて、24区の歴史的経緯や実情を踏まえて決めたと説明しています。2015年時点では5つの特別区を設ける計画でしたが、財政の均衡化、人口の格差などを考慮して修正しました。

淀川区

東西にのびる区域
臨海部には万博会場

此花、港、西淀川、淀川、東淀川の5区が統合します。淀川沿いに東西へ広がる区域は特別区で最も広いですが、区内人口は最小です。大阪の玄関口・新大阪駅を擁し、臨海部にはユニバーサル・スタジオ・ジャパンがあります。2025年に国際博覧会(大阪・関西万博)が開かれる夢洲も淀川区です。洪水や高潮など水害対策が重要になります。

北区

大阪都心の好立地
大規模開発が進行中

北、都島、福島、東成、旭、城東、鶴見の7区が統合します。梅田エリアを抱え、立地条件に恵まれています。人口流入が多く、比較的若い世代が多いのも特徴です。JR大阪駅北側(通称「うめきた」)の2期工事のほか、大阪府立大学と大阪市立大学を統合した「大阪公立大学」の新キャンパス整備など大規模開発が集中しています。

中央区

恵まれた観光資源
福祉対策が課題

中央、西、大正、浪速、住之江、住吉、西成の7区が統合します。大阪城、心斎橋、通天閣など観光資源に恵まれ、大阪中心部のビジネス街「船場地区」も立地します。一方、日雇い労働者が集まるあいりん地区も含まれ、生活保護費は年1000億円を超えます。福祉重視の区運営が求められます。湾岸部では防災対策も重要です。

天王寺区

あべのハルカスのお膝元
住宅街広がる

天王寺、生野、阿倍野、東住吉、平野の5区が統合します。住宅地域が中心で、一戸建ても比較的多い地域です。区内の真法院町と帝塚山は関西屈指の高級住宅地として知られます。日本一高いビル「あべのハルカス」が目立ちますが、商業販売額や工業出荷額は他の3区よりも低く、産業基盤は弱くなっています。

生活、産業、
税収  
10の数字で見る
特別区

淀川区は10.3万人、北区は78.1万人、中央区は72.7万人、天王寺区は64.1万人 淀川区は25.2%、北区は23.7%、中央区は26.1%、天王寺区は27.9% 淀川区は5925人、北区は50669人、中央区は29477人、天王寺区は75人 淀川区は653人、北区は938人、中央区は685人、天王寺区は608人 淀川区は2万6289人、北区は2万2407人、中央区は5万3498人、天王寺区は3万4759人 淀川区は549ヵ所、北区は1079ヵ所、中央区は1054ヵ所、天王寺区は812ヵ所 淀川区は2兆4352億円、北区は6兆212億円、中央区は9兆1072億円、天王寺区は1兆1034億円 淀川区は497億円、北区は750億円、中央区は697億円、天王寺区は551億円 淀川区は1575億円、北区は1575億円、中央区は1575億円、天王寺区は1575億円 淀川区は101店、北区は173店、中央区は248店、天王寺区は111店

1. 総人口

格差少なく 全区が政令市並み

最大の人口を擁するのは北区です。特別区間のバランスが考慮され、最小の淀川区との差は1.3倍になっています。大阪市の人口は270万人を超え、分割後もすべての特別区で政令市並みの規模を維持します。一方、東京23区の最大は世田谷区の94万人、最小は千代田区の6万6000人でバラツキが大きくなっています。

人口推計(2020年9月1日時点)

2. 高齢者比率

最高は天王寺区 30%台も視野

区内人口のうち、65歳以上の高齢者の比率は天王寺区が最高の27.9%です。「うめきた」の再開発が進み、人口流入も多い北区が最も低くなっています。大阪市が試算した2035年の高齢者比率は天王寺区で32.4%、中央区で30.4%となっていて、今後も高齢化が進む見通しです。

人口推計(2020年9月1日時点)

3. 人口流入

都心部に集中 将来は減少見通し

2010年と2020年の人口を比べると、「キタ」と「ミナミ」の繁華街を抱える北区と中央区で増えています。開発が進み、都心のタワーマンションも目立つようになりました。ただ、大阪市が試算する15年後の人口では、すべての特別区が2020年比で7万~10万人減少する見通しです。

2010年国勢調査、人口推計(2020年9月1日時点)

4. 待機児童

「隠れ」はなお多く 都心は用地不足

大阪市公表の待機児童は20人。ただ、何らかの理由で入所できない児童(通称「隠れ待機児童」)も含む保留数は2884人で前年から約600人増えました。都構想は保育支援を特別区に委ねます。北区や中央区の都心部は人口が増える一方、保育施設の用地確保が課題です。特別区をまたぐ入所方法などは現時点で未定です。

大阪市HP(2020年4月1日時点)

5. 生活保護人員

中央区に集中 高齢者の就労支援課題

大阪市は人口あたりの生活保護人員が全国の約3倍で、特別区では日雇い労働者が多いあいりん地区がある中央区に集中します。市全体の生活保護費は1年で約2700億円ですが、大部分は国負担です。特別区でも財政への影響は限定的と見られます。要保護者の受給漏れ防止と、高齢者や体の不自由な人への就労支援が課題です。

区政概要(2019年3月時点)

6. 診療所数

2区が1000ヵ所超 市民病院は府が管理

体調の悪い時に頼りになるのが「〇〇医院」などの身近な診療所です。大阪市は診療所数が比較的充実し、人口あたりで政令市の横浜市や名古屋市を上回ります。都構想では市民病院を大阪府の指揮下にし、府全体で医師などの配置を考える方針です。各特別区に保健所を設けて職員も増やす計画ですが、人材の確保が課題です。

2018年医師・歯科医師・薬剤師調査

7. 区内総生産

中央区は9兆円超え 格差は8倍

区内総生産で目立つのは北区と中央区です。飲食店や宿泊施設が集まる繁華街を抱え、サービス業が総生産の60%以上を占めます。淀川区は化学製品など基礎素材型の拠点があり、製造業の比率が高くなっています。天王寺は住宅街が中心で、総生産は中央区の8分の1どまり。他の3区に比べると産業基盤は弱くなっています。

大阪の経済2020

8. 自主財源

財政調整で収支均衡 「おこづかい」の批判も

大阪市の歳入のうち、特別区の自主財源は市民税やたばこ税で合計は約2500億円です。残りの固定資産税や法人税は大阪府が徴収後、78.3%の約3500億円を特別区に配分します。この財政調整により特別区を収支均衡させ、府は市から一部事務と約2000億円の財源を譲り受けます。財政調整は府による「おこづかい制」との批判もあります。

2016年度決算ベース

9. 株式承継

黒字確保の要 4区に均等配分

大阪市の保有株式の大部分は4等分し、特別区に引き継ぎます。大阪城ホールやセレッソ大阪、関西電力などの株式です。資産額の3分の2が大阪市高速電気軌道(大阪メトロ)で、特別区は同社配当が黒字確保の要です。しかし、コロナ禍で2020年4~6月期は62億円の営業赤字(前年同期は85億円の営業黒字)でした。

特別区設置協定書

10. たこ焼き屋

大阪のソウルフード 観光客魅了

大阪のソウルフードは、たこ焼き。大阪市内の「食べログ」掲載店は600店を超え、「ミナミ」の繁華街がある中央区が最多です。地域住民だけでなく、観光客も呼び寄せて長い行列ができる名店もあります。特別区は飲食店の営業許可や衛生指導を担います。「食の都」の魅力向上は、観光振興の切り札です。

食べログ(10月26日時点)
地方自治巡る
議論再燃も

菅義偉首相は2日、住民投票について「大都市制度の議論で一石を投じることになったのではないか」と評価するコメントを記者団に語りました。今後の地方自治を巡る議論が注目されます。

取材・記事
新田 祐司、佐野 敦子
デザイン
渡辺 健太郎
マークアップ
森田 優里

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