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メガストームの脅威増える爆弾低気圧、
台風は東京接近多く

冬の嵐とも呼ばれる爆弾低気圧の発生回数が30年前と比べて20%増えている。暴風や大雨、大雪を伴い、家屋は倒壊し車両は高速道路上で立ち往生する。夏~秋の台風は、進路が日本列島に近づき、東京への接近数は20年前と比べて1.6倍になっている。こうした災害級の影響をもたらす「メガストーム」の脅威が都市に迫っており、今後も温暖化による海面水温の上昇で増加傾向が続くとみられる。

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広範囲に被害もたらす
爆弾低気圧

岩手県内の国道4号で立ち往生する大型車(2020年12月16日)=共同

2020年12月、関越自動車道や東北地方を縦走する国道4号などで2000台を超える乗用車やトラックが立ち往生した。物流が一時ストップするなどの影響が出た。

この災害を引き起こした冬の嵐は北太平洋で急発達した「爆弾低気圧」が原因のひとつだ。

12日午後9時に中心気圧996.9ヘクトパスカルだった低気圧は、24時間で約28ヘクトパスカル下がり、翌13日午後9時には969.2ヘクトパスカルにまで急成長。勢力を保ったまま千島列島沖で数日間とどまり、「西高東低」の冬型の気圧配置を強めた。立ち往生が発生した関越道近くの観測所(群馬県みなかみ町)で48、72時間降雪量がそれぞれ199センチ、219センチとなり全国の歴代1位を記録する大雪となった。

「冬の嵐」、被害額も台風並み
西日本豪雨の1.6倍も
風水害による保険金支払額
  • 爆弾低気圧による被害

単位は億円。日本損害保険協会の資料を基に作成。2022年3月末現在

爆弾低気圧による被害は夏や秋の台風や豪雨と同規模だ。2014年2月に列島を横断した爆弾低気圧は広範囲で影響が出た。内閣府によると、甲府市で最大114センチの雪が積もった。全国で住宅679棟が全半壊するなどの被害が出た。日本損害保険協会によると、この爆弾低気圧などによる雪害での保険金支払額は3224億円に上った。激甚災害に指定された04年の台風18号の3874億円に迫り、18年の西日本豪雨(1956億円)を上回る。過去の風水害で6番目に支払額が多くなった。

増える爆弾低気圧
過去60年のデータ分析

日本経済新聞は京都大学と東京大学の協力を得て、東日本の太平洋側で低気圧が急激に発達した回数を調べた。一般的に24時間に24ヘクトパスカル以上気圧が下がる低気圧を爆弾低気圧と呼ぶ。気象庁が公開する6時間おきの海面気圧データから、爆弾低気圧の基準を満たす急激な発達回数を調べた。1961~2020年の60年間を30年ごとの前半後半に分けて、その回数を比較。季節は冬季(12月~翌年2月)に限った。

急激な発達、
30年前に比べて20%増

気象庁が公開する海面気圧に関するデータセット「気象庁55年長期再解析(JRA-55)」を、京都大・吉田聡准教授と東京大・岡島悟助教らが分析した結果を基に作成。各年の期間は12月~翌年2月

爆弾低気圧の基準を満たす急激な発達を検出した回数は1961~90年の前半30年間では988回(年平均32.9回)だった。一方、1991~2020年の後半30年間では1199回(年平均40.0回)に上り、21.4%増加した。分析範囲は低気圧が日本に影響を及ぼしやすいと考えられる東経140~180度、北緯35~50度の北太平洋。日本の東の海上にある発達した低気圧は、冬型の気圧配置を強める。

分析に協力した東京大の岡島悟助教は「強風や高波に加え、特に山沿いの豪雪など極端な現象の頻度が増す恐れがある」と警鐘を鳴らす。

爆弾低気圧と台風、
何が違う

メガストームとは、甚大な被害を引き起こすハリケーンなどを指す大嵐の総称で、海外で使われ始めた。一般的な気象用語ではないが、爆弾低気圧や台風などが対象となる。

爆弾低気圧は夏~秋に日本列島を襲う台風とは発達のメカニズムが大きく異なる。

台風=熱帯低気圧

台風とは、中心付近の平均風速が毎秒約17メートルを超えた「熱帯低気圧」のことだ。日本から遠く離れた南の暖かい海の上でできた積乱雲が渦を作り出すことで発生する。比較的温暖な空気だけでできているため、渦の中で上昇気流が起きやすく強く発達しやすい。

爆弾低気圧=温帯低気圧

一方、爆弾低気圧は北緯30~40度前後の中緯度帯と呼ぶ地域で寒気と暖気がぶつかって生まれる「温帯低気圧」が基になっている。南側の暖気の下に北からの寒気が潜り込むことで積乱雲を生み出す。熱帯低気圧ほど上昇気流は強くないものの、上空5キロメートル付近にある上層の気圧の谷と地上付近の低気圧が結びつくと上昇気流が強まり、一気に発達して爆弾低気圧になる。

気圧急低下で被害
影響長期化も

台風で一番影響が出やすいのは中心が接近した地域だ。太平洋で発達しながらミニバイク程度のスピードで日本に近づくため、いつ影響が及ぶかわかりやすい。過ぎ去ると青空が広がることも多い。

それに対し爆弾低気圧は急激に発達して気圧が大きく下がり、暴風被害を生む。日本経済新聞は気象庁のデータを基に、爆弾低気圧が北日本を襲った2021年2月中旬の気圧配置をアニメーション化した。中心気圧の低下の経緯を見てみる。

15日午前9時に日本海にあった低気圧は中心気圧が1000.7ヘクトパスカルだった。

16日午前9時には知床半島沖のオホーツク海に移動し、中心気圧は952.9ヘクトパスカル。一気に47.8ヘクトパスカル下がった。

17日午前9時には宗谷岬の沖合に移動。この日までに北海道内は暴風が吹き荒れた。瞬間最大風速は道内全域の約170カ所ある風の観測所の40%で2月の観測記録を更新。釧路市など6地点で観測史上1位を記録した。

爆弾低気圧は影響も長期化する。爆弾低気圧が日本の東や北東の海上にあると、日本海側に大雪をもたらしやすい冬型の気圧配置を強めるためだ。21年2月の爆弾低気圧は千島列島沖に居座り北日本に猛吹雪をもたらした。

9月の台風14号、気圧の低さ歴代4位で九州上陸

2022年も台風は日本列島に厳重警戒を強いた。台風14号が9月18日に鹿児島市に上陸したときの中心気圧は935ヘクトパスカル。中心気圧の低さは、気象庁が統計を始めた1951年以降で歴代4位になった。上陸時の気圧が低いと強い風が吹きやすく、大荒れの天気になりやすい。米軍合同台風警報センター(JTWC)は上陸前、14号を最も強い区分の「スーパー台風」に位置づけた。

台風14号の大雨で冠水した宮崎県国富町(9月19日午後)=共同

鹿児島県屋久島町では瞬間最大風速毎秒50.9メートルを記録し観測史上1位を記録。宮崎県でも記録的な大雨となった。全国で5人が死亡し154人が重軽傷を負った。

翌週には台風15号が東海地方に接近し、静岡県は大雨や土砂崩れの影響で合計7万6千戸が断水するなど社会に大きな影響を及ぼした。

東京に接近する台風1.6倍に
「非常に強い低気圧」
増える予測も

気象庁のデータを基に作成。東京都庁と大阪市役所を中心にした半径300キロメートルの円の南半分に入った台風をカウント

都市に接近する台風も増加している。気象庁が公開する台風の進路などのデータセットを基に、1980~99年の前半と2000~19年の後半に分けて東京と大阪への接近数を調べた。東京は30個から48個に増え(60%増)、大阪も37個から52個に増えた(41%増)。気象庁によると、台風の発生数は同期間で大きく変わっていない。だが台風の進路は北寄りに変わってきていることがわかる。

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が21年に公表した第6次評価報告書は、地球温暖化の影響で非常に強い熱帯低気圧の割合と、最も強い熱帯低気圧のピーク時の風速は地球規模で増加すると予測している。

米はハリケーンで
「1000年に1度」の大雨

ハリケーン「イアン」は米フロリダ州を中心に米海岸に大きな被害をもたらした(同州フォートマイヤーズビーチ)=AP

メガストームという言葉を生んだ米国は毎年のようにハリケーンによる災害に苦しんでいる。22年9~10月にハリケーン「イアン」が北米を襲い、100人以上の犠牲者が出た。直撃したフロリダ州のプラシーダでは9月28日に12時間雨量が15インチ(381ミリ)を超えた。米CNNは米海洋大気局(NOAA)からの情報として、プラシーダなどの雨の量は「1000年に1度」の想定を上回ったと伝えた。

NOAAのまとめによると、1980~2022年にかけてハリケーンなどの気象災害による被害総額は、約2兆ドル(約272兆円)を超える。

上昇続く海面水温、
爆弾低気圧の発達に寄与

京都大の吉田聡准教授は「近年数が増えている爆弾低気圧は東シナ海付近の海面水温が高まり多湿化していることが要因のひとつだ」と指摘する。気象庁のデータを基に分析すると、東シナ海南部の冬(12月~翌年2月)の海面水温は1991~2020年が1961~90年に比べて0.7度高くなっていた。海面水温が高い分、空気中に蒸発する水蒸気量が増える。水蒸気は水滴(雲)に姿を変えるときに熱を放出するため、上昇気流が強まって低気圧の「爆弾化」にも一役買うというわけだ。

東シナ海の海面水温と爆弾低気圧の発生回数

気象庁のデータを基に作成。各年の期間は12月~翌年2月

IPCCは第6次評価報告書で「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない」と指摘。今後も海面水温が高まる「海洋熱波」は「地球温暖化の進行に直接関係して拡大する」としている。

台風の成長にも海面水温が大きく関わることが知られている。現状のままでは、メガストームの脅威は避けられない。気象庁は、既存技術の磨き上げや新たな観測網の整備などによる予報技術の開発を進めて、これまで以上に早めの警戒情報を出すことが求められる。情報の受け手側も気象災害に関する警戒情報などを受け止め、適切な避難行動に結びつける必要がある。

調査・分析の方法

文部科学省などの支援を受けた京都大学・吉田聡准教授と東京大学・岡島悟助教らの研究論文で使用した「気象庁55年長期再解析(JRA-55)」の解析データの提供を受け、分析・可視化した。

爆弾低気圧は一般的に「緯度60度にある低気圧の中心気圧が24時間以内で24ヘクトパスカル以上低下するもの」とする定義があるが、研究論文と同様、中心気圧を各温帯低気圧の緯度にあわせて補正したほか、中心付近の気圧データも含めて考慮し24時間前と比べて28.8ヘクトパスカル以上下がるような顕著な発達をした機会をカウントした。また6時間ごとの記録のため、1個の低気圧の発生から消滅までの期間で複数回カウントする場合もある。

東京や大阪に接近した台風の数は、気象庁提供のデータセット「気象庁ベストトラック」に収録された台風の進路を6時間ごとのデータに整理して分析した。

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