10〜20代の若者は「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と称賛された時代を知らない。高度経済成長をけん引した製造業はデジタル転換を果たせず、大きな傷を負っている。ヒト、モノ、カネの衰退にも直面した。アニメやゲームといった日本のコンテンツのように世界の「推し」をめざす時だ。2024年1月1日開始の連載「昭和99年 ニッポン反転」につなげる診断結果を紹介する。
たそがれの
メード・イン・ジャパン
「メード・イン・ジャパン」の存在感がかすんでいる。世界輸出シェアはピーク時の1986年には1割を超えていたのに、2022年には3%まで下がった。90年代の円高で生産の海外移管が進み、家電や半導体など主要な輸出品目の競争力は低下した。
台頭したのが中国だ。世界シェアは2001年に日本を超え、22年には17%に高まった。米国やドイツなども日本ほどは落ち込んでいない。傷は年々、深く大きくなっている。
世界貿易に占める国別の輸出シェアの推移
%
デジタル関連機器のシェアは急落している
デジタル製品の日本企業シェア推移
テレビの世界シェアは10年の35%から20年には11%に落ちた。スマートフォンでは米アップルや韓国サムスン電子、中国の小米(シャオミ)が席巻する。
ハードからソフトに付加価値がシフトする趨勢も見誤った。クラウドビジネスでは基盤を提供するIaaSやPaaS、ソフトウエアを提供するSaaSの主要3領域すべてでシェア3%以下だ。
大きなダメージを負ってようやく気づいた。デジタル産業を根幹から立て直すときだ。
イノベーション力も低下
イノベーション力の国際ランキング
位
産業の新陳代謝が落ち、新しいモノを生みだす力は弱まった。
国連の世界知的所有権機関(WIPO)による「グローバル・イノベーション・インデックス」で日本は23年に13位で、韓国(10位)や中国(12位)より低い。07年には米国などに続いて4位だった。
総務省や経済協力開発機構(OECD)の調査結果を見ると、日本の大学の研究開発費は21年に00年に比べて1.2倍とほぼ横ばいだった。韓国は6倍、中国は18年時点で19倍だ。各国が人工知能(AI)や医療・バイオなどに資金を振り向けている。
たまる制度疲労、競争力奪う
世界人材ランキングの国別推移
位
スイスIMDの「世界人材ランキング」で23年、日本は64カ国・地域中43位と過去最低だった。主要7カ国(G7)でも最下位で、人口がはるかに少ないバーレーン(27位)やラトビア(39位)よりも下位だ。
特に評価が低いのは「管理職の国際経験」(64位)や「語学力」(60位)。14年には3位だった「従業員訓練」も35位に低下した。デジタル化など構造転換が加速するなか、かつて競争力を支えた職場内訓練(OJT)は陳腐化した。制度疲労を放置したツケが出た。
設備投資も各国に見劣り
主要国の国内設備投資
設備投資は機械や情報・通信、輸送などの合計で1995年から2021年の間に2割程度しか増えなかった。フランスは8割増、米国やカナダは2倍だった。コスト削減を優先する縮小均衡型経営が産業をむしばんだ。
まだ治療の余地はある。米中対立が深まり、経済安全保障の強化が叫ばれるようになった。生産や研究開発の拠点として日本の価値が見直されている。資金を国内産業の強化に投じる意識の転換が求められている。
投資先としての魅力が低下
「MSCI ACWI」指数に含まれる日本企業の比率
世界の株式ファンドが指標にする「MSCI ACWI」指数。対象に含まれる日本企業の割合は23年10月に5.5%だった。1994年の27%から5分の1まで落ちた。94年には構成銘柄の上位10社のうち半数をトヨタ自動車や日本興業銀行といった日本企業が占めていた。この30年間で全て姿を消した。
指数から外れると連動する投資信託からの資金流入が途絶え、株価下落を招く。円安でドル換算の時価総額が目減りしたことも指数からの除外を加速させている。
世界の証券取引所の売買代金
兆ドル
2014~22年の伸び率
%
証券取引所の株式売買代金はいわば取引の万歩計だ。活動量が落ちるほど、体力も魅力も乏しく映る。
2022年の売買代金を見ると、日本取引所グループは5.8兆ドルだった。世界では米国のニューヨーク証券取引所(30兆ドル)、ナスダック(27.2兆ドル)、中国の深圳証券取引所(18.5兆ドル)、上海証券取引所(13.9兆ドル)に次ぐ規模ではあるものの、米中との差は年々拡大している。
「低体温」な日本、
成長より安定の末路
賃金、労働時間も低位安定
主要国の平均年収
万ドル
日本の賃金は低体温症に苦しんでいる。平均年収は過去30年横ばいが続く。米ドル換算では米国は5割、ドイツは3割上昇し、韓国は2倍だ。低い給与は働き手の意欲をそぎ、草食消費に拍車をかけた。
雇用者の平均年間労働時間は30年で2割減少した。米国や韓国より1〜2割短い。日本の「モーレツ社員」は過去のもの。少子高齢化で人手不足はさらに深刻化する。シニアや育児女性の活躍が欠かせない。
業務効率の向上と賃上げの好循環が日本経済の基礎体温を引き上げる。
気を吐くコンテンツ産業
輝く和製キャラ、世界の「推し」
米グーグルの世界での検索ランキング
日本コンテンツは世界の「推し」だ。米グーグルによれば、2004~23年に世界で最も検索数が多かったアニメは「NARUTO―ナルト―」、テーマ音楽では「スーパーマリオブラザーズ」、ゲームの解説や攻略法では「ポケモン」だった。歌(検索期間は23年)ではアニメ「推しの子」の主題歌だったYOASOBIの「アイドル」が1位になった。