まもなく迎える2024年は昭和に換算すると99年目にあたる。かつての経済大国は世界での順位を下げ、物価の上がらないデフレ体質が足腰を衰えさせた。日本はもう「ダメな国」なのか。日本経済新聞は長い低迷から脱する機会と捉え、連載「昭和99年 ニッポン反転」を1月1日から始める。まずは現状をしっかり健康診断してみよう。
寝不足ニッポン、成果伸びず
昭和の時代、日本は世界第2位の経済大国だった。「24時間戦えますか」と健康ドリンクのCMが問うた。寝る間を惜しんで働いて、背伸びしていた。
今は名目GDP(国内総生産)で米国と中国を大きく見上げる。ドイツにも抜かれ4位に転落しそうだ。国民1人当たりのGDPは、2022年に3.4万ドルと世界32位で、主要7カ国(G7)で最下位に沈む。
名目GDPは4位に転落寸前
名目GDP
兆ドル
1人当たりGDPランキングの推移
位
労働生産性も水をあけられている
睡眠時間
時間
労働生産性
1992年=100
労働生産性も22年までの30年間で8ポイント弱しか上がらなかった。寝不足の日本人を尻目に、G7諸国の生産性は2〜3倍に伸びた。
「安さ」めざしダイエット、
でも脂肪は蓄積
デフレ習慣が「安いニッポン」をもたらした。身を削って価格を下げ、企業の筋力(稼ぐ力)が衰える悪循環を生んだ。
マクドナルドのビッグマックの価格で見てみよう。1989年は370円だった。円換算で日本より高い国はデンマークやスウェーデンなど、ごくわずかだった。いまは450円の日本に対し、スイスでは2倍以上の約1100円を払わなければ食べられない。
ビッグマック価格
円
過度なダイエットで筋肉は減ったのに、なかなか落ちない内臓脂肪のように借金は増え続けた。気づけば国の財政は借金まみれだ。一般政府債務残高のGDP比は90年代後半の金融危機を境に膨らみつづけ、いまや250%を超えてG7で最悪の水準にある。
債務残高対GDP比
%
老いる「昭和の遺産」
高度経済成長期に整備が進んだ交通インフラのアンチエイジングも課題だ。新幹線や都市鉄道のような大動脈は高い収益力を維持するものの、地方の毛細血管は赤字が続き、目詰まりが進む。
道路の多くは「不惑」を超え、2040年には道路橋の約75%、トンネルの約53%が建設から50年以上経過する見通しだ。
使われない道路、古くなった橋をただ延命するのは難しい。時代に合った交通網の再検討が欠かせない。
インフラ老朽度合い
年度ごとのトンネル建設数
トンネルの建設後経過年数ごとの数
社会も老いた
働き手の中心となる15~64歳の生産年齢人口は1991年は全体の69.8%を占めた。2022年に58.4%まで低下し、G7で最下位に沈む。中国や韓国と比べても10ポイント以上低い。
65歳以上の高齢者の比率は22年には29.9%と、モナコに次ぐ世界第2位の高水準にある。世界的にも突出する速さで日本の高齢化が進行している。
生産年齢人口比率はG7最下位
生産年齢人口比率と高齢化率
- 生産年齢人口
- 65歳以上
- 14歳以下
日本
%
米国
%
中国
%
韓国
%
ドイツ
%
インド
%
体質改善への決意は?
政治にそっぽ
現状に甘えず、反転へ動く意思はあるのか。体質改善への決意を映すはずの政治参加に心もとなさがある。
V-Dem研究所による「参加型民主主義」の成熟度の指標はG7で最も低い。次代を担う20代の衆院選の投票率も昭和後期に6割あったのに、平成に入ると30%台まで下がった。直近の2021年は36.5%で、全体の55.9%を大きく下回る。
世代別投票率の推移
企業にたまる反転のスタミナ
反転攻勢への明るい兆しもある。
金融・保険を除く民間企業の経常利益は2023年度上期に55兆円を超えた。過去最高だった22年度を上回るペースだ。企業の現預金は22年度で339兆円と89年度の2倍弱まで増えた。
ため込んだスタミナを研究開発や設備投資に振り向け、成長につなげる姿勢が欠かせない。
民間企業の経常利益の推移
兆円