女子 五輪フィギュア女子、
メダルの行方は?
有力選手の自己ベストを分析

(写真左上、右上、右下=ロイター)


異次元のROC勢、
3位まで独占も

北京五輪シーズンのフィギュアスケート女子は「ロシア・オリンピック委員会(ROC)勢に敵なし」といった情勢だ。グランプリ(GP)シリーズでは、けがによる欠場があったNHK杯を除いて1位を独占。GPファイナル(新型コロナウイルスの影響で中止)出場を決めた6人のうち、5人を占めた。15歳の超新星カミラ・ワリエワ、2021年の世界選手権を制したアンナ・シェルバコワ、そして3種類の4回転ジャンプを女子で初めて成功させたアレクサンドラ・トルソワ。自己ベストの得点も日本勢を大きく上回る。北京五輪の団体では、ROCは女子ショートプログラム(SP)とフリーにワリエワを起用。いずれも1位となり、ROCの優勝に貢献した。ワリエワは団体戦後に昨年12月のドーピング検査での陽性が判明したが、女子シングルへの出場が可能となり、優勝の大本命だ。3位までの独占すら夢物語ではないROC勢の牙城は堅い。団体での日本初の銅メダルに貢献した坂本花織や樋口新葉ら日本勢は割って入ることができるのか。

※自己ベストは国際スケート連盟(ISU)公認のトータルの得点を比較した

女子SPは15日、フリーは17日に実施される。


ワリエワ、
頭一つ抜け出す

各選手の自己ベストの比較
  • ショートプログラム
  • SPジャンプ
  • フリー
  • フリージャンプ

各選手の自己ベストを見ると、ワリエワの強さが際立っている。272.71点は、北京五輪に出場する日本勢で最も高い坂本を40点以上上回る。ROC勢の2人との差も30点以上。頭一つ抜け出す異次元の強さで、優勝の最有力候補だ。シェルバコワ、トルソワと坂本との差もおよそ13点。樋口、河辺愛菜も含め、日本勢がメダルを取るには自己ベストを更新するような演技が求められる。

ジャンプの得点差が大きく

ROC勢と日本勢の得点差が大きくなっている理由の一つがジャンプだ。ジャンプは1本ごと(連続ジャンプも1本に数えられる)に採点され、スピンやステップなどよりも得点の比重が大きい。各選手はSPでは3本、フリーでは7本のジャンプを跳び、SPの最後の1本、フリーの後半(5~7本目)のジャンプは基礎点が1.1倍になる。もちろん、ワリエワらROC勢はジャンプだけの選手ではなく芸術面への評価も高いが、難易度の高いジャンプを跳ぶため日本勢との得点差が目立っている。

各選手の自己ベスト内訳の比較

選手名をクリックすると比較したい選手を選べます

TOTAL 300.00

TOTAL 300.00

TOTAL 300.00

坂本

TOTAL 300.00

樋口

TOTAL 300.00

河辺

TOTAL 300.00

ワリエワ

TOTAL 300.00

シェルバコワ

TOTAL 300.00

トルソワ

TOTAL 300.00

ショートプログラム

技術点

演技構成点

ジャンプ
※2

スピン

ステップ

スケート
技術

要素の
つなぎ

演技

構成

音楽の
解釈

フリー

技術点

演技構成点※1

ジャンプ
※2

スピン

ステップ
など

スケート
技術

要素の
つなぎ

演技

構成

音楽の
解釈

※1演技構成点は各項目の点数がSPは0.8倍、フリーは1.6倍になる
※2ジャンプの点数は1本ごと(ショートプログラムは3本、フリーは7本)に表示
※3フリーで-1.00の減点があった

超新星に隙見当たらず

自己ベストの内訳を見ていくと、ワリエワが超新星と称される理由がよく分かる。ジャンプはもちろん、スピンとステップも取りこぼさず、芸術面を評価する演技構成点でも軒並み高得点をたたき出している。あらゆる面で高いレベルの技術を備えており、隙が見当たらない。

坂本花織

今シーズンのGPファイナル出場権を獲得した唯一の非ROC勢が坂本花織(シスメックス)だ。GPアメリカ杯は4位だったが、NHK杯で優勝。紀平梨花(トヨタ自動車)がけがで不在のなか、安定した演技で全日本選手権も完勝した。ただ、坂本はトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)や4回転といった大技を持っておらず、自己ベストではROC勢に大きく水をあけられている。SP、フリーともにノーミスの演技をそろえることが表彰台の絶対条件となる。

樋口新葉

樋口新葉(明大)は4年前のシーズン、GPファイナル出場を果たしながら全日本選手権で4位に沈んで五輪出場を逃した。今回の全日本ではフリーでトリプルアクセルを成功、見事に4年前のリベンジを果たし「ずっと小さい頃からの夢だった」という五輪をつかみ取った。五輪では「自分のやりたいことを出し切りたい」。SP、フリーともにトリプルアクセルを投入する積極策で勝負をかける。

河辺愛菜

河辺愛菜(木下アカデミー)は全日本選手権で3位に入って五輪出場を決めた。「まさか表彰台に上れるとは思っていなかった」という無欲の17歳。若さとトリプルアクセルを武器に北京に挑む。「自分はまだまだ五輪に出られるレベルに達していない」。シニアでの国際経験は少ないが、それは伸びしろの大きさの裏返しでもある。五輪で世界トップとの距離を知ることは今後の飛躍にもつながるはずだ。

カミラ・ワリエワ

ロイター

今シーズンの女子はシニアデビューを果たしたばかりの15歳、カミラ・ワリエワを中心に回っているといっても過言ではない。GPロシア杯ではSP、フリー、合計の全てで世界歴代最高得点を更新、強者ひしめく充実のROC勢にあっても力は頭一つ抜けている。4回転はいずれも高い出来栄え点(GOE)を引き出す完成度で、表現面に対する評価も高い。隙らしい隙は見当たらず、五輪の頂点に一番近い存在だ。

アンナ・シェルバコワ

ロイター

アンナ・シェルバコワは21年3月の世界選手権を制した女王として北京五輪に臨むことになる。切れ味のある美しいジャンプが特徴で、19年にはシニア女子として初めて難易度の高い4回転ルッツを成功させている。ただ、今シーズンのロシア選手権では同門のワリエワの後じんを拝して4連覇を逃した。初出場となる五輪でどこまで巻き返すことができるか。

アレクサンドラ・トルソワ

ロイター

トーループ、サルコー、フリップ、そしてルッツという4種類の4回転を持つアレクサンドラ・トルソワ。19年のGPカナダ杯のフリーでは3種類4本の4回転に挑み、女子選手として初めて技術点を100点に乗せた。今シーズンはけがでNHK杯を回避したものの、万全の状態で五輪に乗り込んでくるはずだ。SPで出遅れることがあっても、4回転が投入可能なフリーで挽回する爆発力を備えている。


強力なROC勢を抑えて日本勢がメダルを獲得するには、自己ベストを更新するような高い得点が求められる。SPは15日、フリーは17日。10年のバンクーバー五輪での浅田真央さん(銀メダル)以来となるメダルに挑む。