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3大死因と医療費の地域格差

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01

Medical now and future
Health expenditures / Mortality ratio

がん・心臓病・脳卒中の
地域格差

データでみる あなたの市区町村は?

同じ県内でも最大10倍の格差
医療費少なくても死亡率低い自治体も

 日本人の死因の上位を占める「がん」「心臓病」「脳卒中」。実は、その死亡率は同じ都道府県内でも、住んでいる市区町村によって大きな格差がある。人口1万人以上の市区町村で比べると、がんで最大2.30倍、心臓病で10.89倍、脳卒中では5.11倍もの格差があることが分かった。さらに多くの医療費を使いながら死亡率が高い自治体、逆に医療費は少なくても死亡率が低い自治体もある。あなたの住む市区町村はどうなっているのか−−?

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死亡率の地域間格差
  • がん

    がん

    2.30

  • 心臓病

    心臓病

    10.89

  • 脳卒中

    脳卒中

    5.11

「死亡率」を比べるということ

 人は誰でもいつかは亡くなる。そのため死亡率は「100%」とも言える。しかし、一定の期間に亡くなる人の割合は地域ごとに差がある。生活習慣病を予防するなど病気になりにくかったり、病気になっても適切な治療で治ったりするなどの違いがあるからだ。ただ一定の期間で比べると、高齢者が多い地域は死亡率が高くなり、若い人が多い地域では低くなる。それぞれの地域の死亡率を比べるときには、こうした年齢の違いを調整する必要がある。

標準化死亡比

標準化死亡比

標準化死亡比の見方

 今回、市区町村ごとに比べた「死亡率」は厚生労働省が公表している「標準化死亡比」を使った。
 現在公開されているのは2008〜12年の5年間に各地域で亡くなった人の割合だ。全国平均ならば「100」となるように計算し、実際に亡くなった人が全国平均より多ければ100を上回り、少なければ100を下回る。例えばある地域の標準化死亡比が「130」だったとしたら、全国の平均より死亡率が1.3倍高いということになる。年代ごとの全国の死亡率と、地域ごとの人口構成が分かれば簡単に計算できるため、地域ごとの死亡率を比較するときに、よく用いられている。

死亡率を比べるときの注意点

 人口が少ない自治体で一定の期間に死亡した人が突出して多くなると、死亡率が大きくなることがある。死亡数が少なすぎるなどの理由で公表されていない自治体もある。また今回の対象期間中の2011年に東日本大震災があり、被災地では高めに出ていたり、算出できなかったりした自治体もある。また詳細に年齢の違いを計算する「年齢調整死亡率」より精度は落ちる。今回のデータでも地域間や男女の差が小さい場合は単純にどちらの死亡率が高いか言えない場合もあることは注意する必要がある。

1人当たり医療費は最大2.6倍の格差

 日本ではすべての国民が健康保険に加入している(国民皆保険)。医療機関で月に1度、保険証を見せれば、実際にかかった医療費の1〜3割の負担で済む。こうした医療費は、初診料、再診料、入院料、検査料、手術料など一つ一つに価格(診療報酬)が決められている。厚生労働省が原則として2年に1度、全国統一の診療報酬を決め、全国どの医療機関を受診しても同じ医療を受けたとしたら、基本的に医療費も同じになる。

 ところが地域ごとに1人当たりの医療費を計算すると、大きく異なる。同じ病気などでも医療機関に通院する人や受診する回数、入院する期間、検査や治療する内容も医療機関によって異なっているためだ。

1人あたり医療費の地域格差要因
  • 医師数の違い

  • ベッド数の違い

  • 受診する回数

  • 入院する期間

 これまでに、医師数や入院できるベッド数が多いと高くなり、医療機関が少ない地域では患者が受診する回数や入院する期間も少なくなるため低くなる傾向があることが分かっている。医療機関が少なくても、北海道などでは遠方や雪のために通院できない高齢者を入院させることもあり、医療費が高くなるケースもある。

1人あたり医療費(全年齢)最高値及び最安値と1人あたり医療費(後期高齢者)最高値及び最安値の比較

1人あたり医療費(全年齢)最高値及び最安値と1人あたり医療費(後期高齢者)最高値及び最安値の比較

1人あたり医療費(全年齢)最高値及び最安値と
1人あたり医療費(後期高齢者)最高値及び最安値の比較

 厚生労働省によると、1人当たりの医療費(2014年度)は、都道府県別では高知県が65万8千円で最も多く、最も少ない千葉県(43万1千円)の1.53倍の差があった。高齢者ほど医療費は高い傾向があり、75歳以上の高齢者(後期高齢者)では福岡県が116万4千円で最も高く、新潟県(73万7千円)の1.58倍だった。

 市区町村別ではさらに大きな差がある。特により多くの医療費を使う後期高齢者では大きな差があるが、厚生労働省は市区町村別では集計していない。このため日本経済新聞が全国1700を超える市区町村の後期高齢者の1人当たりの医療費を調べたところ、同じ2014年度で最も高かったのは福岡県宇美町の133万4千円で、最も低い東京都御蔵島(みくらじま)村や長野県売木(うるぎ)村、福島県檜枝岐(ひのえまた)村などの2.6倍の格差があることが分かった。

1人あたり医療費(全年齢)最高値及び最安値と1人あたり医療費(後期高齢者)最高値及び最安値の比較

1人あたり医療費(全年齢)最高値及び最安値と1人あたり医療費(後期高齢者)最高値及び最安値の比較

1人あたり医療費(全年齢)最高値及び最安値と1人あたり医療費(後期高齢者)最高値及び最安値の比較

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死亡率と医療費は関係がない?

 「多くの医療費を使っている地域は、死亡率が低くなるのではないか」。そう思う人もいるかもしれない。ところが今回、日本経済新聞が全国の市区町村を比較したところ、必ずしもそうではないことが明らかになった。

1人あたり医療費対がん死亡比(男性)の散布図

判例

 散布図というグラフで、横軸は死亡率が右にいくほど高くなるようにし、縦軸は1人当たり医療費を上に行くほど高くなるようにして、全国の市区町村を死亡率と医療費の全国平均との関係で比較すると、4つのタイプが浮かび上がる。

 まず右上の「医療費が高く、死亡率も高い」タイプがある。「多くの医療費を使っているのに、死亡率が低くない」地域だ。医療機関が多い大都市が目立つ。病気になる人が多く、治療するため医療費がかさんでいる可能性もある。だが多額の医療費を使っていても、死亡率は改善していない可能性もある。

 右下は「医療費は低く、死亡率が高い」タイプだ。東北など医療過疎とされる地域が多い。医療機関が少ないため本来は必要な医療を受けられず医療費は低く、死亡率が高くなっている可能性がある。

 左上は「死亡率は低いが、医療費が高い」タイプだ。右上のタイプと同様、医療機関の多い大都市が目立つが、死亡率は低く、治療成績がいい可能性がある。

 左下の「死亡率が低く、医療費も低い」タイプだ。長野県など健康長寿とされる地域があり、左上と同じ死亡率でも使っている医療費は少ない。左上のタイプはコストを見直す必要があるかもしれない。

まずは自分の住んでいる市区町村の現状を知ろう!

 「死亡率」は生活習慣・健康診断・検診・医療体制など、さまざまな要因・対策の集大成の「成績表」ともいえる。「1人当たり医療費」は医療機関を受診する回数や入院する期間などで大きく異なる。

 日本はいま少子化で働き手が少なくなる一方、医療をより必要とする高齢者は増えている。医療を支える保険料や税金の「収入」が減り、医療費という「支出」が増えている中、限られた財布(財源)をどう使うべきなのか。死亡率を高くしている要因は何か。医療費を少しでも有効に使うことは可能なのか。死亡率と医療費を改善するためにはどの対策を優先するべきなのか。国、都道府県、市区町村、そして国民一人ひとりが考える必要がある。

 市区町村によっては、がんの死亡率は低いが、心臓病の死亡率が高いこともある。心臓病の死亡率が低くても、脳卒中の死亡率が高い自治体もある。女性は全国平均より低くても、男性は全国平均を大きく上回っている自治体もある。そしてその差は同じ都道府県内の自治体で大きな格差がある。

 死亡率が高ければ、少しでも低くするための対策が必要だ。まずは「自分の住んでいる市区町村はどうなっているのか」という現状を知ることが不可欠だ。そのために、日本経済新聞は死亡率と、独自に調査した1人当たりの医療費を市区町村別に比較できるマップを作成した。

 このマップで、自分の住んでいる市区町村を検索し、同じ都道府県内、そして日本全体の中でどうなっているのか、調べてみよう。自分の住んでいる市区町村、そして都道府県で、がん・心臓病・脳卒中、そして男女別の違いはどうなっているか比較し、「なぜ格差が生まれているのか」「どの分野に重点的に取り組むべきなのか」を考えるきっかけにしてほしい。

取材・制作
前村聡、鎌田健一郎、清水正行、安田翔平

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