特集
3大死因と医療費の地域格差

TOPICS
03

Medical now and future
Health expenditures / Mortality ratio

「がん」の地域格差

データでみる あなたの市区町村は?

男性は北海道の1.78倍、
女性は鹿児島の2.30倍

 日本人の死因のトップ、がん。人口が1万人以上の市区町村でみると、県内格差が最も大きかったのは、男性は北海道で1.78倍、女性は鹿児島県で2.30倍だった。

PREVIOUS
TOPICS

NEXT
TOPICS

男性のがん死亡率格差が大きい北海道

 男性でみると、北海道の市町村で最も死亡率が高かったのは南西部の岩内町だ。死亡率は139.8、つまり全国平均より1.39倍高いということになる。道内で最も低い東神楽町は78.7で全国平均より2割以上低いため、北海道の男性のがんの死亡率の県内格差は全国で最も大きくなっている。

 なぜ北海道では大きな格差が生じているのだろうか。「全市区町村マップ」を使って調べてみよう。

 「全市区町村マップを見にいく」をクリックして、表示された画面右の「地図を見る」をクリックすると、日本地図が表示される。画面右下の性別で「男性」を選び、疾患名を「がん」にすると、死亡率の全国の状況が表示される。

 赤色またはピンク色の部分は死亡率が全国平均より高い市区町村、緑色または薄緑色の部分は全国平均より低い市区町村だ。日本全体でみると、男性のがんの死亡率は北海道、東北、中国地方の日本海側、そして九州北部で高い自治体が多いことが分かる。

 全体の状況を把握した次に北海道の状況を詳しく見るために、画面右上の「地域検索」をクリックすると、右側に都道府県リストが表示されるので「北海道」を選ぶと、北海道内の自治体別のマップが表示される。

 マップを見ると、北海道全体では、死亡率が全国平均より高い赤色またはピンク色の部分の自治体が目立つ。特に函館市などがある南西部、札幌市などがある西部、旭川市などがある中央部の西よりと、紋別市や網走市などがある北東部の海沿いも死亡率が全国平均より高いところが目立つ。

 人口1万人以上の自治体で最も死亡率が高い岩内町は画面右上の「地域検索」をクリックして、都道府県名の右側の自治体リストから「岩内町」を選ぶと、死亡率の高い自治体が多い南西部の一つということが分かる。

北海道岩内町

判例

  • 男性
  • がん

北海道

岩内町

人口(2015年国勢調査)

13,042

一人当たり医療費(円)

564,458

医療費全国平均

404,056

がん死亡率男性女性
139.8 137.7
胃がん 119.6 191.2
肺がん 171.9 203.1
大腸がん 109.4 133.1
肝がん 135.2 131.1

 画面左に表示される岩内町の情報を見ると、男性のがんでは胃がん、肺がん、大腸がん、肝がんのすべてが全国平均を上回っている。特に肺がんが171.9で全国平均の1.71倍で突出して死亡率が高い。

 肺がんのリスクは喫煙習慣と切り離すことはできない。国立がん研究センターによると、欧米では、喫煙者の肺がんリスクは、非喫煙者の20倍以上とされ、日本人を対象にした研究(2008年)でも、喫煙者の肺がんリスクは男性で4.8倍、女性で3.9倍という。本人の喫煙だけでなく、家庭や飲食店、職場などで他人が吸ったタバコの煙を吸い込む受動喫煙を減らす予防対策や、検診で早期発見して治療できれば死亡率を下げることができる可能性が高い。

 北海道内の人口1万人以上の自治体で最も死亡率が低かった東神楽町も見てみよう。「地域検索」をクリックして、東神楽町を選択して画面左に表示される情報をみると、男性のがんの死亡率は78.7で、胃がんは66.4、肺がんは86.7、大腸がんは67.8、肝がんも90.0といずれのがんも全国平均を下回っている。

北海道東神楽町

判例

  • 男性
  • がん

北海道

東神楽町

人口(2015年国勢調査)

10,233

一人当たり医療費(円)

409,391

医療費全国平均

404,056

がん死亡率男性女性
78.7 104.6
胃がん 66.4 147.1
肺がん 86.7 88.1
大腸がん 67.8 95.8
肝がん 90.0 ...

 東神楽町の西で隣接する旭川市をクリックすると、男性のがんの死亡率が106.6で全国平均を上回っており、個別のがんでも胃がん以外は上回っていることが分かる。特に肺がんは120.6と東神楽町の86.7と比べて30ポイント以上も上回っている。肺がんについては、女性も東神楽町と旭川市は男性とほぼ同じ状況だ。今回のデータだけでは原因は分からないため、こうしたデータをきっかけに隣接した地域で大きな死亡率の差が出ている背景を探るなど、死亡率の減少につなげる材料をみつけてほしい。

女性のがん死亡率格差が最も大きい鹿児島県

 女性のがんの死亡率で県内格差が最も大きかった鹿児島県も見てみよう。

 画面右上の「地域検索」をクリックして、鹿児島県を選択する。島嶼部以外で死亡率が全国平均を上回っている自治体が点在しており、特に県南東部は死亡率が高い自治体が集中していることが分かる。鹿児島県内の人口1万人以上の自治体で最も女性のがん死亡率が高い大崎町も県南東部にある。右上の「地域検索」で大崎町をクリックすると、画面左側に死亡率などの情報が表示される。

鹿児島県大崎町

判例

  • 女性
  • がん

鹿児島県

大崎町

人口(2015年国勢調査)

13,171

一人当たり医療費(円)

498,673

医療費全国平均

404,056

がん死亡率男性女性
104.6 115.8
胃がん 98.9 102.7
肺がん 94.5 84.4
大腸がん 98.0 122.6
肝がん 194.3 219.0

 大崎町のがんの死亡率は115.8で、全国平均の1.15倍ということになる。がん別では、肝がんが219.0で、全国平均を2倍以上上回っていることが死亡率を押し上げている。男性でみても肝がんの死亡率は194.3で、胃がん、肺がん、大腸がんは全国平均を下回っているにもかかわらず、肝がんの死亡率が高いため、がんの死亡率は104.6と全国平均をやや上回るほどに押し上げている。

 地図をみると、鹿児島県で女性のがん死亡率が全国平均を上回っている県南東部は大崎町の北東で隣接する志布志(しぶし)市で肝がんの死亡率が104.9、南に隣接する東串良(ひがしくしら)町は143.5、その南の肝付(きもつき)町も148.9と高くなっていることが分かる。

 県南東部以外で全国平均を上回っている赤色の自治体をクリックしていくと、女性の肝がん死亡率は日置市が233.1、霧島市が158.9、指宿市が157.1で、女性の肝がんが女性のがん死亡率を高くしている点は共通していることも分かる。

 国立がん研究センターによると、肝がんは発生要因が明らかになっているがんの一つで、最も関係が深いとされるのが肝炎ウイルスだ。肝炎ウイルスの中でも主にB型とC型が肝がんと関係があるとされており、B型では1割、C型では7割の確率で慢性肝炎になり、炎症が続くことで肝がんになりやすくなる。B型、C型はインターフェロン(注射薬)や飲み薬による治療法などで、肝がんを発症するリスクを減少させることも明らかになっている。

 こうした治療のほか、国立がん研究センターは定期的に肝機能のチェックを受けることで、肝がんを発症しても早期に発見して治療できる。鹿児島県ではこうした肝がんの死亡率が高い自治体で、肝炎ウイルスに感染しているかどうか検査し、適切な治療を勧めるほか、定期的な検診体制が十分取られているかどうか、確認する必要がある。

 ほかにも女性のがん死亡率が高い自治体で県北西部の阿久根(あくね)市をクリックすると、肝がんの死亡率は87.8と低いが、肺がんの死亡率が124.5と高くなっていることが分かる。阿久根市では肺がんを発症するリスクを高める喫煙率や肺がんの検診体制を検証する必要がありそうだ。

鹿児島県阿久根市

判例

  • 女性
  • がん

鹿児島県

阿久根市

人口(2015年国勢調査)

21,328

一人当たり医療費(円)

572,977

医療費全国平均

404,056

がん死亡率男性女性
97.9 107.3
胃がん 74.5 77.2
肺がん 91.7 124.5
大腸がん 83.8 84.0
肝がん 91.3 87.8

 がんの死亡率では、こうした複数のがんの死亡率が関係しているため、「なぜ死亡率が高くなっているのか」をがん別に見てみることも大切だ。

 鹿児島県の女性のがん死亡率で最も低いのは奄美諸島の徳之島町で50.4だ。全国平均の半分で、胃がんは死亡数が少なく、厚生労働省はデータを公表していないが、肺がん、大腸がん、肝がんのいずれも全国平均を大きく下回っている。医療機関は必ずしも充実していないが、女性の平均寿命は87.1歳(2010年市区町村別生命表)で全国平均(86.4歳)より高い。男性のがん死亡率は99.7で全国平均を少し下回るが、心筋梗塞の死亡率が高いなど、平均寿命では78.7歳で、全国平均(79.6歳)を下回る。男女の違いがなぜ生じているのか、詳細な検証と対策が必要だ。

鹿児島県徳之島町

判例

  • 女性
  • がん

鹿児島県

徳之島町

人口(2015年国勢調査)

11,398

一人当たり医療費(円)

381,346

医療費全国平均

404,056

がん死亡率男性女性
99.7 50.4
胃がん 76.8 ...
肺がん 93.1 87.5
大腸がん 105.5 36.5
肝がん 90.5 68.7

がん死亡率格差が小さくても、
がんの種類では死亡率高い自治体も

 県内の自治体の死亡率格差が最も小さいのは人口1万人以上の市区町村でみると、男性では滋賀県で1.19倍、女性では徳島県の1.26倍だった。

 県内格差が小さければ、課題はないのだろうか。両県を地図で見てみる。

 まず滋賀県を地図の「地域検索」から選択すると、湖南市と甲良(こうら)町以外は全国平均より死亡率が低いことが分かる。人口1万人以上の湖南市でも102.2で全国平均を少し上回っているだけで、県内格差が小さいだけでなく、がん死亡率も低い「理想的な県」のようだ。だが自治体別に詳細に分析すると、課題も浮かび上がる。

滋賀県竜王町

判例

  • 男性
  • がん

滋賀県

竜王町

人口(2015年国勢調査)

12,363

一人当たり医療費(円)

386,098

医療費全国平均

404,056

がん死亡率男性女性
95.0 107.1
胃がん 131.0 64.5
肺がん 98.8 58.5
大腸がん 93.2 140.7
肝がん ... 123.8

 例えば男性の胃がん死亡率でみると、人口1万人以上では県南部の竜王町は131.0で全国の1.31倍と高くなっている。男性のがん死亡率では、肺がんで米原(まいばら)市が124.3と全国平均の1.2倍を超えている。

 女性でも個別のがんで全国平均の1.2倍を超えている自治体がある。胃がんで長浜市と近江八幡(おうみはちまん)市がそれぞれ126.9と126.6、肺がんで湖南市が128.7、大腸がんで竜王町が140.7、湖南市が129.0、高島市が124.3、肝がんで竜王町が123.8となっている。

 女性で県内格差が1.26倍と最も小さい徳島県も「地域検索」で選択すると、全国平均を下回っているのは県南部の海陽町と牟岐(むぎ)町、県中央部の神山町だがいずれも人口1万人未満で、人口1万人以上ではすべて全国平均を下回っている。男性の滋賀県と同様、死亡率が低く、県内格差も小さい「理想的な県」のようだ。

徳島県東みよし町

判例

  • 女性
  • がん

徳島県

東みよし町

人口(2015年国勢調査)

14,320

一人当たり医療費(円)

527,548

医療費全国平均

404,056

がん死亡率男性女性
100.8 92.7
胃がん 81.1 93.4
肺がん 128.4 71.9
大腸がん 94.7 56.0
肝がん 57.1 172.9

 だががん別でみると、県北西部の東みよし町は肝がんの死亡率が172.9で全国平均の1.72倍に達している。

男女差が目立つ東京都

 市区町村の格差だけでなく、それぞれのがんについて、自分の住んでいる地域がどのような状況にあるか、全国平均と比べることで、課題が見えてくる。

東京都

東京のがん医療費と死亡率(男性)

東京都

東京のがん医療費と死亡率(女性)

 首都、東京都を見てみよう。

 東京都を男女で比較すると、男性は中央部の死亡率が低く、最も西にある奥多摩町のほか、足立区、葛飾区、江戸川区、墨田区など北東部の死亡率が高い。女性をみると、奥多摩町は全国平均以下で、隣接する檜原(ひのはら)村は逆に全国平均を上回る。北東部は男性と同じく高いが、中央部の調布市、府中市などは男性と逆に死亡率が全国平均を上回っていることが目につく。特に府中市は胃がん、肺がん、大腸がん、肝がんのいずれも全国平均を上回っている。東京都は他県に比べると、医療機関は充実しているが、がんの死亡率にはこれだけの差が出ている。治療体制より、喫煙、食生活、運動など生活習慣などの予防対策や、がん検査の受診率などの検証が必要そうだ。

有効な対策のために、まず実情を知ろう

 がんの死亡率には都道府県間の格差があるが、この地図で市区町村別の死亡率を比べると、同じ県内でも格差があることが浮き彫りになる。県内格差が小さくても、ひとつひとつの自治体を見ていくと、個別のがんでは突出して高い自治体もある。

 がんを発症する原因は数多くあり、結果として死亡率が高くなる理由も1つではない。だが、ある地域の死亡率が突出して高ければ詳しく検証し、対策を講じれば死亡率を下げることができる可能性がある。

 例えば、がんの最大の危険因子とされるのはタバコであり、喫煙率の高低が影響している可能性がある。自身が吸わなくても受動喫煙するリスクが高ければ、同様の危険性がある。大量の飲酒もがんのリスクを高める。塩分の多い食事は胃がんを発症しやすく、死亡率が上がる可能性がある。胃がんではピロリ菌の除菌療法で発症率を低くすることもできる。運動不足もがんを引き起こす要因とされている。こうした「1次予防」をどうするのか。地図を使って自治体単位で比較、検証する必要がある。

 どんなに「1次予防」をしても、がんになる可能性はある。そこでがんを早期に発見するがん検診という「2次予防」も不可欠だ。すべてのがん検査の受診率を上げることは理想だが、市区町村で突出して死亡率が高いがんがあり、検査の受診率が低ければ、重点的に取り組んだ方が効果は高くなるだろう。

 「2次予防」でもすべてのがんは防げない。がんになって治療を受けた後、再発や転移を早く見つける「3次予防」も死亡率を下げることにつながる。がん治療後の定期的な検査体制の充実も必要になるだろう。

 こうしたがん対策は自治体が中心となるが、自分の住んでいる自治体のがん死亡率の実情と、対策がかみ合っていなければ、住民として自治体に働きかけることも求められる。まずその一歩として、この地図を使って、自分の住んでいる都道府県、そして市区町村の実情を知ることが大切だ。

取材・制作
前村聡、鎌田健一郎、清水正行、安田翔平

Visual Data 一覧へ戻る