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3大死因と医療費の地域格差

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05

Medical now and future
Health expenditures / Mortality ratio

「脳卒中」の地域格差

データでみる あなたの市区町村は?

脳卒中、「寝たきり」の最大の要因に

 「脳卒中」は脳にある血管が詰まったり、破れたりして脳内に血液が循環しなくなる脳血管疾患の総称だ。「卒中」とは「卒然(突然)」に「中(あた)る」という意味で、急激に意識を失って倒れ、治療で血流が再開するまでに時間がかかると、血液が循環しなかった部分の機能が失われ、半身不随に陥る。「寝たきり」となる原因の4割を占めるとされ、介護が必要になる最大のきっかけになっている。2016年には10万7千人が亡くなっており、予防に加え、発症した後の迅速な治療が生死だけでなく、その後の生活の質(QOL)の違いの分かれ目となる。

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県内格差が3倍超 
男性が6県、女性が14道府県

 今回、厚生労働省が2008〜12年の5年間に亡くなった人の死因を年齢調整した死亡率(標準化死亡比)を人口1万人以上の市区町村で比較した。脳卒中は血管が詰まる「脳梗塞」と、血管が破れる「脳内出血」に大きく分けられるが、脳卒中患者の4分の3を占め、治療薬や医療技術の進歩が著しい脳梗塞の死亡率で比べた。

脳梗塞の死亡率で市区町村格差が大きい県(2008〜12年、人口1万人以上)
都道府県男性都道府県女性
佐賀3.73沖縄5.11
熊本3.38埼玉4.90
埼玉3.34愛知4.39
福井3.28北海道4.35
秋田3.19新潟4.06
宮崎3.13熊本3.92
沖縄2.93福岡3.61
愛知2.92山口3.51
京都2.85茨城3.42
北海道2.76岐阜3.12
福島2.72福井3.11
山口2.66鹿児島3.11
新潟2.60京都3.07
兵庫2.59青森3.06

グレーは男女とも3倍を超えている県

 県内格差が最も大きかったのは、男性は佐賀県の3.73倍で、3倍を超えたのは熊本県(3.38倍)、埼玉県(3.34倍)、福井県(3.28倍)、秋田県(3.19倍)、宮崎県(3.13倍)の6県。女性では沖縄県の5.11倍がトップで、埼玉県(4.90倍)、愛知県(4.39倍)、北海道(4.35倍)、新潟(4.06倍)と5道県が4倍を超え、3倍を超えたのは計14道府県に上り、県内格差は女性の方が大きかった。埼玉県、福井県、熊本県の3県は男女とも3倍を超えていた。

 厚生労働省が2017年6月に公表した都道府県別の格差をみてみると、人口10万人当たりで年齢調整した死亡率では、2015年に男性で最も高い青森県(26.6人)と最も低い滋賀県(12.4人)では2.15倍、女性では最も高い青森県(13.2人)と最も低い沖縄県(5.9人)では2.24倍の格差があった。

脳梗塞の死亡率は同じ県内の市区町村で格差がある

県内格差が都道府県格差を上回っている都道府県(男性)

  • 男性

県内格差が都道府県格差を上回っている都道府県(女性)

  • 女性

判例

 男性では30道府県、女性も29道府県は都道府県の格差よりも同じ県内での市区町村格差が大きかった。急性心筋梗塞では同様のケースは男性が13道府県、女性が10道府県で、脳梗塞の方が市区町村格差の開きが大きかった。急性心筋梗塞より脳梗塞で亡くなる人数が少ないためそれぞれの誤差の範囲が大きくなった影響も考慮する必要はあるが、脳梗塞における県内格差の原因分析と対策は各都道府県にとって重要な課題となっている。

熊本県、隣接する町で全国2位の県内格差に

 全市区町村マップで男女とも県内の市区町村の死亡率格差が3倍を超えていた県の一つ、熊本県。年齢調整した脳梗塞の死亡率は人口10万人当たりで男性が16.3人、女性が7.4人で、いずれも全国平均の18.1人、9.3人を下回っている。

 熊本県全体として緑または薄緑色の自治体が多いことが分かる。ところが県南部など赤色が目立ち、県内でも死亡率が高い自治体があることが分かる。この県南部に人口1万人以上の市町村では県内で最も死亡率が高い錦町がある。男性は179.9、女性は150.3で、全国平均のそれぞれ約1.8倍、約1.5倍の高さだ。

岐阜県八百津町

判例

  • 男性
  • 脳疾患

熊本県

錦町

人口(2015年国勢調査)

10,766

一人当たり医療費(円)

432,889

医療費全国平均

404,056

脳疾患死亡率男性女性
179.9150.3

 東に隣接する、あさぎり町を見てみると、脳梗塞の死亡率は男性が53.3、女性が83.9で、死亡率は全国平均の5〜2割程度低い。実はこの隣接する錦町とあさぎり町が、男性で県内の1万人以上の市町村で死亡率が最高と最低でこの格差(179.9と53.3)が3.38倍となっており、全国で2番目に大きい県内格差を生み出している。

 10年前の1998〜2002年の5年間の死亡率でみると、錦町は同様に全国平均を大きく上回っている。一方、あさぎり町は03年に町村合併された町なので、直接比較はできないものの、合併前の町村も一部村以外は全国平均レベルか下回っている。両町とも救急医療体制などの条件はほとんど同じだ。県全体では死亡率は全国平均より低くても、こうした同じ地域の市町村で大きな格差がある原因の分析が求められる。

岐阜県八百津町

判例

  • 女性
  • 脳疾患

熊本県

あさぎり町

人口(2015年国勢調査)

15,523

一人当たり医療費(円)

456,805

医療費全国平均

404,056

脳疾患死亡率男性女性
53.383.9

「発症から4時間半」 
専門施設までの搬送時間で明暗も

 脳梗塞の治療は、血管を詰まらせた血栓を除き、脳内に血流を再開させるまでの時間をいかに短くするかが勝負だ。

 点滴で血管内に投与して血栓を溶かす血栓溶解剤「t−PA(てぃーぴーえー)」が2005年に国内で認可された。現在は発症から4時間半までならば投与できる。ところがt−PA療法は投与するためには、コンピューター断層装置(CT)や磁気共鳴画像装置(MRI)を備え、出血の合併症のリスクがないか迅速に検査できることが条件となっており、脳卒中の専門チームが24時間態勢で待機している施設が限られている。

 こうした対応ができる施設に救急搬送されるかどうかで、その後の生活は大きく変わる。脳梗塞による死亡率が高い地域は、近隣にこうした施設が整っていない可能性もある。全市区町村マップを活用して、自分の住んでいる市区町村が県内で突出して脳梗塞の死亡率が高いかどうか確認し、もし高ければ予防だけでなく、こうした治療施設が整備されているかどうか検証して、十分でなければ都道府県などに働きかけることも必要だ。

取材・制作
前村聡、鎌田健一郎、清水正行、安田翔平

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