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3大死因と医療費の地域格差

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02

Medical now and future
Health expenditures / Mortality ratio

医療制度の基礎

データでみる あなたの市区町村は?

医療費とは?

 健康保険証を提示した医療機関で診察や治療を受けると、最後に窓口で医療費を支払う。しかしこの医療費は診察や治療でかかった医療費の全額ではない。それぞれが提示した健康保険証を発行している健康保険組合が大部分を後で医療機関に支払うからだ。窓口で支払うのは現役世代で3割、75歳以上の高齢者(後期高齢者)で1割、70歳以上でも現役並みの所得がある人は3割など、かかった医療費の1〜3割だ。つまり窓口で1500円支払った場合、3割負担の現役世代の場合にかかった医療費は5000円となる。

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 こうした公的保険が適用される医療費は「初診料」や「手術費」などひとつひとつの医療行為について、厚生労働省が価格(診療報酬)を決めており、全国どこの医療機関で診察や治療を受けても同じ価格だ。診療報酬については厚生労働省の中央社会保険医療協議会(中医協)という審議会で議論され、原則として2年に1度見直されている。

医療費の自己負担割合

医療費の自己負担割合

医療費の自己負担割合

 何にどれくらい医療費を使ったかは医療費を支払った際に領収書と一緒に渡される「医療費明細書」に細かく記載されている。例えば、初めて受診した場合は「初診料」として「282点」となっている。診療報酬は「1点=10円」となっているため、「2820円」が初診料となる。

国民皆保険(健康保険)の仕組み

 日本は1961年に国民皆保険を導入し、すべての国民がこうした公的な医療保険に加入している。

組合健康保険
企業が自社員のために運営
全国健康保険協会
組合健康保険を持たない企業の社員が加入
国民健康保険
自営業者や無職者が加入する。市町村運営
共済組合
公務員などが加入

 公的な医療保険は75歳未満では大きく分けて4つあり、①大企業などが自社の社員のために設立した「組合健康保険」(組合健保)②単独で組合健保を持たない中小企業などの社員が加入する全国健康保険協会(協会けんぽ)③自営業者や無職者が加入して市町村が運営する国民健康保険(市町村国保)④公務員などが加入する共済組合だ。①の組合健保は約1400組合あり、約2900万人が加入している。②は全国で1つの協会けんぽで、加入者数は約3500万人。③の市町村国保は約1700の組合で約3400万人が加入、④の共済組合は約80あり、加入者は約900万人だ。

 このほか75歳以上を対象とした「後期高齢者医療制度」がある。2008年度に導入され、47都道府県単位に「広域連合」という形で市区町村が参加して運営している。加入者数は約1500万人だ。高齢者は市町村国保に多かったため、「75歳以上」を一つの医療制度として統合し、国、都道府県など自治体のほか、75歳未満の組合健保、協会けんぽ、市町村国保、共済組合がそれぞれ「支援金」を出して支えている。

後期高齢者医療制度の財源構成

後期高齢者医療制度の財源構成

後期高齢者医療制度の財源構成

後期高齢者医療制度の財源構成

医療費の現状と今後の課題

 国全体の医療費は膨張し続けている。厚生労働省の2016年9月発表によると、2015年度は約41兆5千億円で、前年度に比べて約1.5兆円増加した。1万円札を積み上げると1.5兆円は15万メートル(15キロメートル)。世界最高峰のエベレスト(8848メートル)のおよそ2つ分の医療費が1年間で増えたことになる。

医療費の推移

医療費の推移

医療費の推移

 医療費が増え続けているのは、医療費を多く使う高齢者が増えていることだけでなく、医療技術の進歩で医療行為の単価が上昇しており、1人当たりの医療費が増加していることが原因だ。

 2015年度の医療費でみると、伸び率は3.8%。内訳では入院費用が1.9%、通院など入院外費用が3.3%だったのに対し、薬代を含む「調剤費」が9.4%増加し、全体の伸び率を1%押し上げたという。

 厚生労働省は1錠6〜8万円と高額のC型肝炎治療薬が登場し、治療効果も高いため使用が増え、全体の医療費を押し上げたとみている。抗がん剤も高い効果が期待される新薬は1瓶73万円で、肺がん患者が1年間使うと3500万円に上る計算になり、肺がんが適用になった後、厚生労働省が薬代(薬価)を急きょ半額に下げる異例の対応をした。こうした医療技術の進歩も1人当たりの医療費を押し上げる要因となっている。

医療費の伸び率の推移

医療費の伸び率の推移

医療費の伸び率の推移

 医療費は増える一方、支える保険料と税金など公費は限りがある。75歳以上の後期高齢者は14.8兆円の医療費を支えてもらっているが、高齢者自らが支払う保険料は約1割(1.6兆円)のみで、約5割(7兆円)は税金など公費、約4割(6.2兆円)は現役世代からの支援金で支えている。少子化で現役世代が減る中、支援金の負担に耐えられず、解散する健保組合もある。

 ただ後期高齢者の1人当たりの医療費は、日本経済新聞の調査で市区町村別で133万4千円から47万6千円まで2.6倍を超える格差がある。一方で死亡率とは関係もなく、有効に使われていない医療費があるとみられる。こうした実情を検証し、医療費を適正にしない限り、膨張する医療費を支えることはできなくなるのは時間の問題だ。

取材・制作
前村聡、鎌田健一郎、清水正行、安田翔平

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