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3大死因と医療費の地域格差
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「心臓病」の地域格差
データでみる あなたの市区町村は?
心筋梗塞、予防と迅速な治療が生死を分ける
血液を全身に送り出す心臓の状態が悪くなる心疾患は、日本人の死因ではがんに次いで2番目に多い。特に心臓の周囲に王冠のように巡っている冠(かん)動脈が血栓で完全に詰まってしまうと、心臓を動かしている筋肉(心筋)に酸素や栄養素が届かなくなり、心臓は止まってしまう。こうした急性心筋梗塞はリスクを高める高血圧や高コレステロール、糖尿病、肥満などにならない予防と、万一発症した場合に迅速に治療できるかどうかが生死を分ける。
男女とも岐阜県が格差最大
男性で8.04倍、女性で10.89倍
今回、厚労省が2008〜12年までの5年間に亡くなった人の死因を年齢調整した市区町村別の死亡率(標準化死亡比)を人口1万人以上の市区町村で比較したところ、男女とも同じ県内の格差は岐阜県が最も高く、男性で8.04倍、女性で10.89倍に上った。
厚生労働省が2017年6月に公表した都道府県別の格差もみてみよう。人口規模が大きいため人口10万人当たりで年齢調整をした死亡率で比較しており、2015年では男性では最も高い福島県(34.7人)と最も低い熊本県(8.6人)で4.03倍、女性では最も高い福島県(15.5人)と最も低い秋田県(3.1人)で5.00倍の格差があった。
同じ県内の市区町村間の格差では男性では13道府県が都道府県別格差の4.03倍を上回っていた。女性も10道府県が都道府県格差の5.00倍を上回っていた。都道府県間だけでなく、同じ県内の市区町村間の格差解消に向けた分析と対策が求められている。
県内格差分析で、重点的な対策を
全市区町村マップで県内格差が男女とも最大だった岐阜県の状況を調べてみよう。岐阜県は都道府県別のデータでも急性心筋梗塞の死亡率の高さが男女とも12位で全国平均を上回っている。県内格差の分析で、県全体の死亡率を下げられる可能性も分かるかもしれない。
まず全国の状況を全市区町村マップでみてみよう。「全市区町村マップを見にいく」をクリックし、日本地図が表示されたら、画面右下の性別で「男性」を選び、疾患名を「心疾患」にすると、死亡率の全国の状況が表示される。
赤色またはピンク色の部分は死亡率が全国平均より高い市区町村、緑色または薄緑色の部分は全国平均より低い市区町村だ。北海道中央部、東北南部から関東北部、紀伊半島周辺、近畿地方西部から中国地方東部、九州北東部と南部が高い状況が分かる。画面右下の散布図をみると、全国平均の「100」を中心にがんと比べて分布が横に広がっており、全国でも市区町村別の格差が大きいことも分かる。
岐阜県を見るためには、画面右上の「地域検索」をクリックすると、右側に都道府県のリストが表示されるので「岐阜県」を選ぶと、岐阜県内の自治体別マップが表示される。
人口1万人以上の市区町村で最も急性心筋梗塞の死亡率が高い八百津(やおつ)町のデータをみてみよう。「地域検索」で「八百津町」と選ぶと、画面左に情報が表示される。急性心筋梗塞の死亡率は380.3で全国平均の約3.8倍だった。八百津町は女性の心筋梗塞死亡率も390.0で男性を上回る高さだ。
- 男性
- 心疾患
岐阜県
八百津町
人口(2015年国勢調査)
11,027
一人当たり医療費(円)
451,872
医療費全国平均
404,056
心疾患死亡率 | 男性 | 女性 |
---|---|---|
380.3 | 390.0 |
市区町村マップをみてみると、急性心筋梗塞の死亡率は岐阜県全体では全国平均より低い緑色または薄緑色が多いが、県南部と西部に赤色またはピンク色が目立つことが分かる。八百津町も県南部にある。性別を「女性」にしてみても傾向はだいたい同じだ。県南東部に共通の課題があるのかもしれない。
県南東部の課題を探るために、岐阜県が策定している「岐阜県健康増進計画 第2次ヘルスプランぎふ21」を見てみよう。
それによると、県南東部の東濃(とうのう)地域は県内でも最も高齢者の多い地域で、国民健康保険のデータでは高血圧症と人工透析で治療を受ける患者の割合が県平均を上回っている。 第2次ヘルスプランぎふ21」を見てみよう。
健康診断の結果でも、血圧とコレステロール値の項目で基準値を超える人の割合が県平均より高い傾向があるという。1日の平均歩数も男女とも高齢者で県平均を下回り、「身体活動・運動量が不足している」と指摘しており、いずれも急性心筋梗塞の発症リスクを高くするデータだ。生活習慣の見直し対策が十分でない状況が続いている。
高血圧症 | 人工透析 | |
---|---|---|
19.7% | 岐阜県 | 0.27% |
21.1% | 多治見市 | 0.34% |
21.0% | 瑞浪市 | 0.39% |
20.7% | 土岐市 | 0.31% |
22.4% | 中津川市 | 0.32% |
21.5% | 恵那市 | 0.32% |
治療体制は「岐阜県保健医療計画」によると、東濃地域は急性心筋梗塞を発症した患者に対して、血管内にカテーテル(細い管)を挿入し、詰まった部分を治療して、再び詰まらないようにステント(網状の筒)を入れる「カテーテル手術」ができる施設は3病院ある。東濃地域はこうしたカテーテル手術の件数が人口10万人当たりでは37件で、岐阜県平均の40.7件を下回る。東濃地域は急性心筋梗塞の死亡率が県内で高いにもかかわらず、カテーテル手術の件数が少ないということは、必要な患者に実施できていない可能性がある。
死亡率が県内で最も高い八百津町は東濃地域に隣接する中濃地域だが、場所はほぼ東濃地域に近い。こうした県南東部は、全市区町村マップで見ると、がんの死亡率は低い。このため生活習慣病でも、特に急性心筋梗塞のリスクを高める高血圧や糖尿病などの対策強化が必要だ。それとともに、急性心筋梗塞を発症した場合には短時間で搬送して治療体制の検討が必要とみられる。県内で死亡率の高い地域で対策を重点的に実施することで、県全体の死亡率の低下につながるはずだ。
県全体の死亡率が低くても…熊本県
厚労省が2017年6月に公表した2015年の都道府県別年齢調整死亡率で、急性心筋梗塞が男性で低かったのは熊本県だ。人口10万人当たりの死亡率は8.6人で、全国平均の16.2人のおよそ半分。女性も3.5人でやはり全国平均の6.1人のおよそ半分だった。
全市区町村マップで熊本県を調べてみよう。
- 男性
- 心疾患
熊本県
菊池市
人口(2015年国勢調査)
48,167
一人当たり医療費(円)
472,141
医療費全国平均
404,056
がん死亡率 | 男性 | 女性 |
---|---|---|
144.4 | 144.5 |
男性でみると、全国平均を下回る緑色の自治体が多く、急性心筋梗塞の死亡率が全国で最も低いのも納得がいく。一方、赤色の自治体もある。県北部の菊池市は急性心筋梗塞の死亡率が男性は144.4と全国平均の約1.4倍と高い。県東部の山都(やまと)町も117.9だ。県内の自治体間では5.53倍と5倍を超える格差がある。
このように県全体では死亡率は低くても、市町村で大きな差が潜んでいることが全市区町村マップを見れば一目瞭然となる。ところが熊本県が策定している「第6次熊本県保健医療計画」を読むと、急性心筋梗塞の評価指標は県全体でまとめており、こうした市町村ごとの違い、地域ごとの違いについては分析した結果が記載されていない。そのため予防や救急医療体制の対策も全般的な説明になっており、きめ細かい課題に対応していない。
熊本県以外でも、県全体では死亡率は低くても同じ県内の市区町村格差は大きい。急性心筋梗塞の場合は、生活習慣病対策という予防だけでなく、発症した際に短時間で医療機関に救急搬送され、カテーテル手術を受けられるかどうかで、死亡率は大きく変わる。全市区町村マップを利用して、自分が住んでいる県全体の状況、そして市区町村の死亡率がどうなっているのかをまず知ってほしい。そのうえで、格差の原因は何か、どのような対策が必要になるかをあらかじめ考えてほしい。
がんと異なり、急性心筋梗塞は発症してから生死を分ける判断までの時間は短い。事前に状況を把握し、県、市区町村で対策を講じておくことが不可欠だ。
特集
3大死因と医療費の地域格差
- 取材・制作
- 前村聡、鎌田健一郎、清水正行、安田翔平