分断のアメリカ 大統領選まで1年 左を向くミレニアル Generation

2020年11月3日の米大統領選が1年後に迫った。3年前に「異端」の大統領を誕生させた米国の分断は一段と進み、未曽有の不確実性が社会を覆う。世代間で広がる有権者の意識変化はどんな結末をもたらすのか。

2016年大統領選
ドナルド・トランプ勝利 
ヒラリー・クリントン勝利
EPISODE1

将来世代のため今こそ」

2016年大統領選
ドナルド・トランプ勝利
ヒラリー・クリントン勝利

アイオワ州
デモイン

有権者の世代交代

次の米大統領選は有権者の「世代交代」がおきる。ベビーブーマー世代(1946〜64年生まれ、20年に7130万人)を、若者の中核となるミレニアル世代(同81〜96年、7280万人)が初めて逆転するためだ。

米国勢調査局の予測によると、前回大統領選のあった16年からベビーブーマーは470万人減る一方、ミレニアルは150万人超増える。

10月20日、大学で開かれたウォーレンの選挙集会には大勢の若者が集まった

10月20日、中西部アイオワ州デモイン。大学の施設に若者ら1200人が集まり、民主党の左派候補エリザベス・ウォーレン(70)の話に耳を傾けた。20年大統領選で初めて一票を投じる大学生のエマ・バートランド(19)が熱っぽく語った。「彼女は最も進歩的で信頼できる。将来の世代のために動く時だ」

ウォーレンが掲げるのは国民皆保険や大学無償化といったリベラル色が濃い政策だ。冷戦の記憶があるベビーブーマーとは違い、エマら多くの若者に社会主義的な政策への抵抗感は薄い。勝手連の「ウォーレンを応援する学生たち」は全米各地の大学に数十もの支援網を張り巡らす。

ウォーレンの演説を真剣に聞く若者たち

EPISODE2

切実な大学ローン返済

2016年大統領選
ドナルド・トランプ勝利
ヒラリー・クリントン勝利

カリフォルニア州
リバーサイド

選挙事務所に集う若者

サンダースの選挙事務所には若者たちが集う

ロサンゼルスから東へ車で約1時間、西部カリフォルニア州リバーサイドの住宅街の一角。同じく民主の左派候補、バーニー・サンダース(78)の選挙事務所に若者が吸い込まれていく。その一人、医者を志すエンジェル・コントレラス(20)がボランティアに加わったのには切実な事情がある。

医者になるまでに抱える可能性がある債務は20万ドル(約2200万円)超だ。「学費が足りない」。思い悩んでいたとき、「学生ローンを帳消しにする」と訴えるサンダースに心を動かされた。

世論に左右されぬ政治家歓迎

選挙事務所で、サンダース支持の理由を説明する若者

背景に格差の固定化

今、30歳以下だけで大統領選の投票があれば全米50州全てで民主が勝つ」。若者の投票動向に詳しいハーバード大ケネディスクール世論調査センター所長、ジョン・デラボルペ(52)はこう分析する。01年の米同時テロや金融危機などが若者の政治意識に大きく影響し、世代間で大きく意見が割れる「かつてない現象を生んだ」。ピュー・リサーチ・センターの調査によると、ミレニアル世代は民主支持が6割弱と共和の2倍に迫る。大統領ドナルド・トランプ(73)の支持率は29%だ。

ミレニアル、民主支持6割近く

(世代別の政党支持率。薄色は弱い支持)

(出所)ピュー・リサーチ・センター。年齢は2019年時点。

若者の「左傾化」を促すのはグローバル化の進展だ。ミレニアル世代は08年の金融危機前後の就職難に直面し、米国で初めて「親の世代よりも貧しくなる」といわれる。格差の固定化が進み、ブルッキングス研究所によると上位1%の富裕層が資産の3割弱を占める。民主左派がミレニアルら新たな巨大票田に照準を定め、格差是正に力を入れるのはこのためだ。

ウォーレンはそれを実現するための目玉政策である国民皆保険などの実現に向け、富裕層への増税やトランプが導入した大企業減税見直しを掲げる。持論である「GAFA」など米IT(情報技術)大手の解体や銀行・証券の分離を定める規制の復活が実現すれば、米企業の競争力低下だけでなく市場の混乱を招くとの見方もある。制裁関税にも前向きで、対中貿易戦争の収束もおぼつかなくなる。

EPISODE3

白人高齢者の楽園」

2016年大統領選
ドナルド・トランプ勝利
ヒラリー・クリントン勝利

フロリダ州
ザ・ビレッジズ

激戦州にある退職者の町

退職者が集う街「ザ・ビレッジズ」

住民の平均年齢67歳、白人が98%――。共和支持者が民主の約2倍で、16年大統領選で68%がトランプに投票した「白人の楽園」が南部フロリダ州にある。世界最大級の退職者街「ザ・ビレッジズ」。「民主党は不法移民にまで医療保険を提供するつもりだ。私が大統領のうちはあなたたちの保険を守ってみせる」。10月3日、トランプは高齢者向け公的医療保険制度の改善をめざす大統領令の署名式にこの場を選んだ。

ゴルフ場周辺に住宅が建ち並び、リタイア後をゴルフ三昧で過ごせる。街の移動手段であるゴルフカートに「20年トランプ・ペンス」のステッカーを貼るウォルター・ファーンスウォース(72)が話す。「ここでのトランプ人気は不動だ」

米国版「団塊世代」のファーンスウォースさんはトランプ支持を公言する

ビレッジズは引退したベビーブーマーが全米から移り住み、人口増加率が最も高い都市圏の一つだ。第2次世界大戦の復員兵帰還で出生率が上昇し、アメリカンドリームを体現する右肩上がりの豊かな時代に生まれ育った米国版「団塊の世代」であるベビーブーマー。彼らには「偉大な米国を取り戻す」とするトランプの「『米国第一』のメッセージが心に響く」(ファーンスウォース)。

トランプ人気は揺るがず」

トランプ支持の高齢者インタビュー

世代間で色分けが進む政治意識。18年中間選挙(下院)の出口調査では18~29歳の67%が民主に投票し、32%だった共和の2倍以上だった。その差は年齢層が高まるほど縮まり、65歳以上では共和が民主を2ポイント上回る。18〜29歳と65歳以上の世代の政党支持率の差はこの40年で最大になった。

ベビーブーマー劣勢に

「なんで彼を支持できるの」。南部バージニア州在住の熱心なトランプ支持者、ベス・バンクス(74)は西部ワシントン州シアトルで働く20歳代の孫娘から問い詰められた。保守的だった孫娘は大学でリベラルに染まり、民主のサンダースに傾倒する。ベスは「あの子とはもう政治の話はしないのよ」とぼやく。

迷走を重ねる英国の欧州連合(EU)離脱を決めた16年の国民投票でも、世代間の断絶はあらわになった。18〜24歳では73%が残留を支持したが、65歳超は60%が離脱を選択。若者が敗れた最大の要因は投票率の低さだ。

高齢者の投票率が高いのは米国も共通するが、18年中間選挙ではミレニアルの投票率が42%と過去最高になった。

ミレニアルの投票率急上昇

(出所)ピュー・リサーチ・センター


米国で胎動する世代交代の大きなうねり。20年にそれをとらえるのは共和か、民主か。米国にいくつも走る亀裂を修復できるかを探る機会にもなる。

取材・記事
永沢毅、川合智之、鳳山太成、中村亮、高橋そら、清水石珠実、野毛洋子、芦塚智子、伴百江、関根沙羅、河内真帆、長沼亜紀、西邨紘子
デザイン
渡辺健太郎、森田優里
プログラミング
清水正行
マークアップ
宮下啓之
映像
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Webディレクション
清水明

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