分断のアメリカ 大統領選まで1年 銃規制なるか Gun

国民が武器を持つ権利を定めた憲法をもつ米国。銃撃事件の悲劇が繰り返されるなか、規制を巡る論争は20年の勝敗を左右する。

2016年大統領選
ドナルド・トランプ勝利 
ヒラリー・クリントン勝利
EPISODE1

高校生、世論動かす

2016年大統領選
ドナルド・トランプ勝利
ヒラリー・クリントン勝利

ワシントンDC

銃規制を訴える人たちが連邦議会議事堂前に集まった

9月末、米首都ワシントンの連邦議会議事堂前。2018年2月に南部フロリダ州で17人の犠牲者が出た高校銃撃事件の生存者の話に聴衆が聞き入った。中西部イリノイ州から駆けつけた高校生ダニエル・ガルシア(17)は他人ごととは思えなかった。初めて投票権を得る20年大統領選は「銃規制を重視する候補に投票する」。

シカゴから銃規制を求める集会に参加した高校生ガルシアさん

トランプ政権下、犠牲者は最悪ペース

銃撃事件が後を絶たない米国。調査によると、世界の銃(民間部門)推計8億5700万丁のうち46%が米国にある。1人あたり1.2丁と人口より多く、内戦中のイエメンを抜いて首位だ。米誌マザージョーンズの調べによると4人以上が殺害された銃乱射事件は大統領ドナルド・トランプ(73)の就任以降に30件、犠牲者は258人と1980年代以降で最悪のペースだ。

銃乱射事件の犠牲者は増え続けている

出所)ガン・バイオレンス・アーカイブ、銃撃で4人以上が負傷・死亡した事件

規制強化、もはやタブーでない

前副大統領ジョー・バイデン(76)ら20日のテレビ討論会に参加する野党・民主党の大統領候補9人全員が、殺傷能力の高い銃の販売禁止を支持する。かつては民主でも銃規制を強硬に訴えるのはタブーだった。00年大統領選で民主候補アル・ゴア(71)が敗れた一因は銃規制の強化を訴えたためというのが定説だからだ。

民主が銃規制に傾くのに対し、共和党の動きは鈍い。銃保有者の割合が高い上位10州のうち、8州は16年大統領選でトランプが勝った共和地盤の州だ。調査で「銃を持つ権利の保護がより重要」と考える人は00年時点で民主支持者の20%、共和の38%だった。19年には民主は21%と横ばいだったが、共和は80%に急増した。民主と共和の溝は広がる。

EPISODE2

人種憎悪も絡む

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ドナルド・トランプ勝利
ヒラリー・クリントン勝利

テキサス州
エルパソ

トランプに矛先

8月に22人の犠牲者を出す銃撃事件がおきたメキシコ国境に近い南部テキサス州エルパソ。再開に向けた準備が進む事件現場となった小売り大手ウォルマートの店舗近くの慰霊碑には弔問に訪れる人々の姿が絶えない。

ここは安全な街なのに、国境について危険なイメージを植え付けようとしている」。メキシコから10年前に移住したセバスチャン・アギラール(21)はトランプへの懸念を隠さない。トランプはメキシコ側から犯罪者が流れ込む危険な町だと主張してきた。殺害された22人の多くがヒスパニック(中南米系)やメキシコ人で、容疑者はメキシコ人を標的にしたと供述している。アギラールは「銃規制をもっと厳しくするのに賛成だ」。

犠牲者を悼む花が添えられた事件現場のウォルマート。同社は銃弾の販売をやめた

度重なる銃乱射事件を背景に規制強化を求める声は高まっている。全米公共ラジオNPRが9月に実施した調査では、個人間の銃の取引など一部の取引で任意となっていた銃購入者への身元確認を全ての銃取引に広げる措置を83%が支持した。7月にミシシッピ州の店舗でも事件が起きたウォルマートは9月、一部の銃弾の販売をとりやめた。従業員の署名活動やストライキが起きたためだ。

銃保有は地域や人種で差がある

出所)ピュー・リサーチ・センターの17年調査

EPISODE3

愛好者にひろがる危機感

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アリゾナ州
フェニックス

修正第2条」への誇り

9月下旬、西部アリゾナ州フェニックス。銃保有の権利保護団体「修正第2条財団」の集会に1千人超が集まった。銃保有を認める合衆国憲法修正第2条は、西部を開拓し、民兵らが英国との独立戦争を戦った歴史と誇りの象徴 だ。参加者のイーライ・ペグンソン(21)は「米国は自衛の精神のもとに成立した」と腰に携帯した銃を見せる。

「銃は正しく使えば安全」と語る愛好家のテイラーさん

会員公称500万人の米国最大の銃ロビー団体、全米ライフル協会(NRA)は16年大統領選で3千万ドル(約33億円)を投じ、トランプ当選を後押しした。トランプは8月の銃乱射事件の直後に対策を検討する姿勢を見せたが、その後撤回。9月の国連総会で「米国は武器を保有する憲法上の権利を常に支持する」と強調した。

各国も規制に動く

オーストラリアは1996年に35人が死亡した銃乱射事件後に半自動小銃などの販売・所持を原則禁じ、100万丁以上を政府が買い上げて処分した。同国でその後、乱射事件は激減 した。3月の銃乱射で51人が死亡したニュージーランドは半自動小銃などの所持を禁じる法律をわずか1カ月後に成立させた。


銃が放つ強力な政治的影響力は国内外に及ぶ。20年は米国の銃と政治を巡る転換点になるだろうか。

取材・記事
永沢毅、川合智之、鳳山太成、中村亮、高橋そら、清水石珠実、野毛洋子、芦塚智子、伴百江、関根沙羅、河内真帆、長沼亜紀、西邨紘子
デザイン
渡辺健太郎、森田優里
プログラミング
清水正行
マークアップ
宮下啓之
映像
伊藤岳
Webディレクション
清水明

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