分断のアメリカ 大統領選まで1年 Ⅳ 「次こそ女性大統領」 Women
3年前の2016年大統領選で「初の女性大統領」の誕生を阻んだ米社会。20年はその転機となるのか。
蔑視発言に怒り
ワシントンDC
「被害者が最適任」
10月6日、首都ワシントンの連邦最高裁前。ちょうど1年前、大統領ドナルド・トランプ(73)が指名した保守派最高裁判事の就任阻止を訴えるデモで逮捕されたメリーランド州在住の女性レベッカ・トラクソル(45)は、判事とトランプの弾劾を求める抗議活動に再び加わった。
かつて共和党を支持していたトラクソルはセクハラ疑惑や女性蔑視の発言を繰り返すトランプの大統領就任で、2020年大統領選は民主党の女性候補の支持を考えるようになった。「いじめっ子を負かすのは、その被害者が最適任だ。女性の権利の前進には女性大統領が最善だ」
デモに参加したワシントン在住の男性ダニエル・ロドリゲス(34)も民主の女性候補エリザベス・ウォーレン(70)を推す。「多くの国で女性指導者が誕生しているにもかかわらず、米国は後れを取っている。トランプの後だからこそ、女性大統領を選ぶときだ」
候補指名争い、女性最多に
民主ではトランプへの反発が女性の政治参加を促し、18年の中間選挙で連邦下院選に立候補した女性の数が356人と16年から2倍に増えた。20年大統領選の民主の候補指名争いには首位争いに絡むウォーレンら過去最多の女性が名乗りを上げる。
米ギャラップの調査では、米国で女性大統領に賛成する割合は1937年の33%から19年は94%に高まった。「『ガラスの天井』はいつか誰かが破る」。16年、トランプに苦杯をなめた元国務長官ヒラリー・クリントン(72)はこう敗北宣言した。ただ、そのトラウマを引きずる民主支持者には複雑な思いもある。
18年中間選挙は連邦下院選の女性候補者数が過去最高
(出所)米ラトガース大「米女性と政治センター」、立候補の届出数
女性の政治参加、
実は見劣り
ニューハンプシャー州
ロチェスター
根強い偏見の壁
10月9日、東部ニューハンプシャー州ロチェスター。民主の大統領候補の1人、前副大統領ジョー・バイデン(76)の選挙集会に参加した女性、カレン・チャンドラー(68)はこう語る。「女性への偏見はまだ一部では根強い。今回は副大統領候補でどうかしら」
トランプ打倒が最優先
調査会社イプソスによると、民主支持者と無党派で20年の民主大統領候補を選ぶ際の基準について「トランプを打倒できる候補」と答えたのは82%に達し、「女性を選ぶことが重要」は40%にとどまった。
「トランプを打倒できる候補」が8割超に
(出所)イプソスが6月に発表した世論調査を基に作成、複数回答
女性の社会進出が活発なイメージの強い米国。各国の議会でつくる国際組織の列国議会同盟によると、実は女性議員の割合(連邦議会)は193カ国・地域中78位にとどまり、主要7カ国(G7)でも日本(164位)に次いで下から2番目だ。ダボス会議がまとめた政治参加に関する男女の公平性ランキングで、米国は149カ国中98位にすぎない。過去に二大政党で副大統領候補に指名された女性は08年のサラ・ペイリン(55)ら2人だけで、いずれも実現していない。
西部カリフォルニア州ロサンゼルス郊外に住む大学生の女性、ジェシカ・メザ(20)は「米社会はまだ女性大統領を受け入れる素地ができていない」とため息をつく。「女性は未熟だから大統領にはふさわしくない」。義理の母にはこう言われたことがある。
「トランプは女性の味方」
バージニア州
チェサピーク
女性大統領、共和支持者に抵抗感
保守的な共和支持者の間では、女性大統領への抵抗感が根強い。ピュー・リサーチ・センターによると、女性の政治指導者が少ない主な理由に性差別があると考える割合は共和支持者だと30%にとどまり、民主支持者(64%)の半分以下だ。
メディアは嘘ばかり
9月下旬、南部バージニア州チェサピーク。トランプ陣営の女性部「ウィメン・フォー・トランプ」の会合に地元の女性ら約30人が集まった。「大統領を支持しているのは男性だけとか、大統領は女性蔑視だとか、メディアは噓ばかりだ。正しい情報を周りに伝えてください」。陣営幹部の呼びかけに、参加者から大きな拍手がわいた。
女性の共和支持者、トランプ人気高く
ミキ・ミラー(65)も「過去の発言や女性問題には感心しないけど、大統領は公約を実行している。信頼している」とうなずく。「女性大統領が実現すれば素晴らしい。ただ、ちゃんとした女性でなければね」と民主の女性候補を批判する。ギャラップが3月末に実施した世論調査では、トランプを支持する女性有権者は全体で34%に過ぎないが、共和支持の女性に限ると90%に達した。
共和支持の女性のトランプ支持率は90%
(出所)米ギャラップ社が3月に発表した世論調査を基に作成
有事に陣頭指揮を執る米軍の最高司令官を兼ね、核のボタンを握る米大統領。調査会社ユーガブによると、安全保障の対処で「男性の方が優れている」と答えたのは共和支持者で43%にのぼり、民主(14%)の3倍に及ぶ。根強い偏見はいまだに破れない「ガラスの天井」の厚みを映し出す。