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数字が語る南シナ海 争い招く豊かさ

南シナ海

中国やフィリピン、ベトナムなど周辺国が域内の権益を争う南シナ海。領有権問題に直接かかわらない日本や米国も、安全保障などの観点から紛争の解決を強く求めている。多くの国々を争いに巻き込むのは、原油や天然ガス、水産物など海洋資源に恵まれると同時に、南シナ海が貿易に欠かせない重要なシーレーン(海上交通路)にもなっているからだ。いくつかのデータから検証してみよう。

TOPIC 1 原油・天然ガス、眠る資源は?

原油 世界の未発見原油埋蔵量(2012年)

単位:億バレル
日本の年間輸入量
中国の年間輸入量
南シナ海の埋蔵量
12.3億バレル
24.7億バレル
112.0億バレル
約9.1倍
約4.5倍

米エネルギー情報局(EIA)は、南シナ海に存在すると推定される原油の未発見資源量を112億バレルと見積もる。旧ソ連地域や中東・北アフリカに比べれば少ないが、資源量は欧州を上回り、日本の年間輸入量の約9倍に相当する。中国海洋石油総公司の調査では1250億バレルが眠っていると報告するなど、不確かな部分もある。各国の権益争いを背景に、南シナ海はほかの海域ほど探査が進んでいないのが実情だ。

天然ガス 世界の未発見天然ガス埋蔵量(2012年)

単位:兆立方フィート
中国の年間輸入量
日本の年間輸入量
南シナ海の埋蔵量
2.1兆立方フィート
4.2兆立方フィート
190.0兆立方フィート
約90倍
約45倍

米EIAによると、南シナ海の天然ガスの未発見資源量は、日本の輸入量の約45年分にあたる190兆立方フィートに達する。ただ、石油と同じく総量の詳細はわかっていない。中国海洋石油総公司は500兆立方フィートが存在すると見積もる。こうした海域内の天然資源への期待が、権益を巡る紛争に拍車をかけている。

TOPIC 2 資源の通り道、海上輸送の生命線

行き来する貨物、世界の3分の1

世界の貿易額 約16.5兆ドル
南シナ海の年間通過輸送額 約5.3兆ドル

南シナ海経由の原油

約23%が日本へ
南シナ海 約1,400万バレル/1日

南シナ海経由の天然ガス

約57%が日本へ
南シナ海 約6兆立方フィート
  • 原油原油
  • 天然ガス天然ガス

「南シナ海の領有権問題自体は当事国間の問題だが、南シナ海は日本にとって死活的に重要なシーレーン(海上交通路)だ」。安倍晋三首相は国際会議のたびに各国首脳に訴える。データを見ると、石油、天然ガスともに南シナ海が要路となっているのが一目瞭然だ。南シナ海を経由して運ぶ原油の23%、天然ガスの57%が日本に向かう。島国の日本はパイプラインを通じた輸入ができず、南シナ海の安定は首相が指摘する通り「死活的」といえる。

TOPIC 3 豊かな海、水産物の宝庫

漁獲量は世界の12%

世界全体の漁獲量 1億791万トン
南シナ海周辺国・地域の漁獲量 1,367万トン

周辺国・地域の漁獲高

中国が4割強
98.1億ドル
43.8億ドル
27.3億ドル
12.9億ドル
中国
ベトナム
台湾
タイ

南シナ海は鉱物資源だけでなく、この海域に住む人々の貴重なたんぱく源にもなっている。フィリピン環境天然資源省によると、世界の海産種の3分の1がこの海域に集まるといい、タチウオやサバ、エビ、カニなどが捕れる。周辺国・地域の国々の漁獲量は世界全体の約12%を占める。周辺11カ国・地域の漁獲高のうち、4割強を占めているのが中国。近年、この海域の乱獲も深刻な問題になっている。

TOPIC 4 人口増の周辺国、たんぱく源を争う

周辺国・地域の人口増

日本
中国
インドネシア
フィリピン
ベトナム
タイ
ミャンマー
マレーシア
カンボジア
ラオス
シンガポール
ブルネイ
  • 日本日本
  • 中国中国
  • インドネシアインドネシア
  • フィリピンフィリピン
  • ベトナムベトナム
  • タイタイ
  • ミャンマーミャンマー
  • マレーシアマレーシア
  • カンボジアカンボジア
  • ラオスラオス
  • シンガポールシンガポール
  • ブルネイブルネイ

周辺国が南シナ海の権益を争うのは、人口増をまかなうたんぱく源を確保しなければならない事情もある。この25年間で日本の人口がほぼ横ばいだったのに対し、フィリピンは1.6倍、マレーシアが1.7倍になるなど南シナ海周辺国の人口増は顕著だ。国連の推計によると、2050年の世界人口は97億人。このうちアジアは2015年に比べて2割増の52億人を占める。南シナ海周辺国でもインドネシアが3割増の3億2千万人、ベトナムが2割増の1億1千万人に達する見通しだ。

制作・データ分析:
地曳航也、板津直快、鎌田健一郎、佐藤健
ウエブ制作協力:
ノースショア株式会社
制作・データ分析:
地曳航也、板津直快、鎌田健一郎、佐藤健
ウエブ制作協力:
ノースショア株式会社

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