世界のコンテンツ市場において最も規模が大きいのは、今なお活字メディアだ。なかでも成長が見込まれるのが電子書籍。この4年間で世界の市場は急拡大し、とりわけ新興国の伸びが著しい。発展途上国でも通信網の普及とともに身近になり、紙よりも携帯端末の画面で「本」を読む日常が広がりつつある。読書の未来の姿をデータで探る。
インターネットの普及や携帯端末の発達とともに競合するコンテンツが増え、紙の書籍の売り上げは世界的に減少傾向が続いている。2011年から15年までに市場は8%ほど縮小した。一方、電子書籍の売り上げは同じ期間に2.5倍に拡大した。
市場規模が最も大きいのはIT(情報技術)大国の米国。世界の総販売額のほぼ半分を占めている。米国では一般書籍の売り上げのうち3分の1近くを電子書籍が占めるまでになっており、確固とした地位を築いている。日本も13%を占めて2位につけ、存在感を示している。
市場の伸び率を見ると、BRICs諸国に加えタイやトルコといった新興国が上位にずらりと並ぶ。携帯端末の普及と通信網の発達を背景に、紙の書籍を経ない「いきなり電子書籍」の利用者が増えているとみられる。金額こそまだ小さいものの、紙の書籍市場が成熟した先進国よりも上昇の勢いは急だ。
途上国では男性より女性の方が熱心にモバイルで読書をしている。書店も図書館もなく、女性に対する教育への理解が低い地域でも、手軽に本を入手し、周囲の目を気にすることなく読めるからだという。モバイル読書を体験した後、読書嫌いの6割以上が読書好きに転換したという調査結果もあり、教育や識字率の向上に大きな役割が期待されている。
日本の電子書籍市場も4年間で2.5倍に伸びた。紙の出版物の売り上げが11年連続で減少しているのに対し、10年ごろから毎年成長を続け、15年度には同年1年の週刊誌の売り上げを抜いた。20年には電子雑誌も含めた売上高が3000億円を超すとの市場予測もあり、出版市場の5分の1に迫る見込み。電子書籍の8割をコミックが占めるという他国にない特徴がある。
出版社はコミックの電子化に力を入れる。無料アプリや試し読みなどのサービスが成功しているほか、大人が子供の頃に愛読した作品を読み直したり、少女マンガを男性が気兼ねなく読んだりと、電子配信が新たな読者を開拓しているという。コミック市場でも紙の出版物の減少は続くが、落ち込み分を電子コミックで補うまでになってきた。将来は紙と地位が逆転するとの予測も現実味を帯びる。